私的整理、民事再生及び法人破産の選び方

顧問税理士からは私的整理を勧められ、取引銀行の担当者からは民事再生を口にされ、知人の経営者からは早く破産した方がよいと言われる。三者三様の助言を受け、どれが自社に当てはまるのか判断がつかないまま、月末の資金繰りに追われて日が過ぎていく。窮境にある会社の経営者が置かれるのは、このような状態です。

助言が食い違うのは、それぞれが異なる前提に立っているためです。税理士は納税と税務上の効果を、金融機関は自行の回収額を、知人の経営者は自身の経験を前提として述べています。三つの手続は、目的も、要件も、影響が及ぶ範囲も異なりますので、前提が違えば結論も変わります。

結論から申し上げます。三つの手続の選択は、経営者の意思ではなく、事業の収益力、資金が尽きるまでの日数、そして債権者の構成という三つの数値によって決まります。民事再生法第21条第1項及び破産法第15条第1項は、それぞれの手続の開始原因を定めており、要件を満たさない手続を選ぶことはできません。以下、順にご説明します。

本記事が扱う場面と、関連する記事

事業再生の場面は、手続を選ぶ場面と、個別の手法を論ずる場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。

三つの方法は、何が違うのか

違いは四つの軸で整理できます。裁判所が関与するか否か、対象となる債権者の範囲、事業が継続するか否か、そして外部に公表されるか否かです。

私的整理は、裁判所を用いず、金融機関等の対象債権者との合意によって債務を圧縮する方法です。取引先の債権は対象外としますので、仕入と販売は従前どおり続きます。外部に公表されません。ただし、対象債権者全員の同意が必要です。

民事再生は、裁判所の手続により、原則としてすべての再生債権を対象として債務を圧縮する方法です。事業は継続しますが、手続の開始は公告されますので、取引先の知るところとなります。再生計画の可決には債権者の多数の同意を要しますが、全員の同意までは必要としません。

法人破産は、裁判所の手続により、会社の財産を換価して債権者に配当し、法人格を消滅させる方法です。事業は原則として停止します。会社法第431条は株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとすると定めていますが、いずれの手続を選ぶ場合であっても、この慣行に従って作成された計算書類が判断の出発点となります。

私的整理を選ぶことができる会社の条件

私的整理を選ぶことができるのは、次の三つの条件を満たす会社です。

第一に、債務のうち圧縮を要する部分が、金融機関等の債権に集中していることです。取引先に対する債務が大きく、その圧縮なしには再建できない場合には、私的整理では対応できません。取引先を対象に含めれば、取引そのものが失われるためです。

第二に、事業に収益力が残っていることです。営業利益が黒字であり、金利負担を除けば資金が回る状態であることが求められます。債務を圧縮すれば返済可能となる、という説明ができなければ、債権者は同意しません。

第三に、対象債権者の数が限られており、全員の同意を得ることが現実的であることです。一行でも反対すれば成立しません。準則型の私的整理として、中小企業活性化協議会による手続や事業再生ADRなどの枠組みが用意されており、第三者が関与することにより同意の形成が図られます。「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、中小企業の事業再生等に関する研究会が令和4年3月に公表した準則であり、中小企業の私的整理の進め方を定めています。

民事再生を選ぶ場合に必要となるもの

民事再生法第21条第1項は、債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき、又は債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときに、再生手続開始の申立てをすることができると定めています。同法第33条第1項により、裁判所はこの要件を満たす申立てがあったときは、第25条により棄却する場合を除き、再生手続開始の決定をします。

民事再生法第25条は、再生手続の費用の予納がないとき、裁判所に破産手続又は特別清算手続が係属しその手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき、再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき、不当な目的で申立てがされたとき等に、申立てを棄却しなければならないと定めています。すなわち、計画の見込みが立たない申立ては受理されません。

実務上必要となるのは三つです。第一に、予納金です。負債総額に応じて定まり、数百万円から数千万円に及びます。第二に、申立て後の運転資金です。手続開始後は従前の取引条件が維持されない場合が多く、現金による仕入が求められます。第三に、再生計画の裏付けです。民事再生法第174条第1項は、再生計画案が可決された場合には裁判所は再生計画認可の決定をすると定めていますが、同条第2項は、再生計画が遂行される見込みがないときには不認可の決定をすると定めています。

法人破産を選ぶという判断

破産法第15条第1項は、債務者が支払不能にあるときは、裁判所は申立てにより決定で破産手続を開始すると定め、同条第2項は債務者が支払を停止したときは支払不能にあるものと推定すると定めています。破産法第30条第1項は、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、費用の予納がない場合等を除き、破産手続開始の決定をすると定めています。

破産を選ぶべき場合は明確です。営業を続けることによって損失が拡大し、資産の減少が続く状態であるときです。この状態で事業を続けることは、債権者への配当原資を減らす行為にほかなりません。

破産は、経営者にとって最も避けたい選択肢と受け止められがちですが、機能の面から見れば、債権者への公平な分配を確定させ、責任の範囲を確定させる手続です。資金が尽きてから申し立てますと、予納金すら用意できず、従業員への給与も未払のまま手続に入ることになります。破産を選ぶ場合であっても、着手の時期は早いほど関係者の損失が小さくなります。

経営者個人の保証と、方法の選択との関係

三つの手続のいずれを選んでも、会社の債務についての経営者の保証債務は当然には消滅しません。ただし、保証債務を整理する枠組みとの接続の仕方が異なります。

私的整理では、会社の債務の圧縮と保証債務の整理とを、同一の協議の中で扱うことができます。対象債権者が共通であるため、一体の合意として構成する余地があります。

民事再生及び破産では、会社の手続と保証人の手続とが別に進みます。保証人が破産手続を選ぶ場合、破産法第252条第1項は、同項各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合に免責許可の決定をすると定めています。財産の隠匿、特定の債権者への偏った弁済、帳簿書類の隠滅などが同項各号に掲げられていますので、会社の手続を進める過程での行動が、経営者個人の免責に影響します。

すなわち、会社の方法の選択は、保証人の処理と切り離して行うことができません。会社の手続の設計段階で、保証人の代理人が関与することが望まれます。

取引先と従業員への影響の違い

私的整理では、取引先の債権は対象外としますので、取引先は影響を受けません。従業員の雇用も維持されます。もっとも、対象債権者との協議の過程で、役員報酬の減額や人員の見直しを求められることがあります。

民事再生では、手続開始が公告され、再生債権の届出が求められますので、取引先は債権の一部について弁済を受けられないことになります。以後の取引条件は現金取引に変更されることが多く、資金負担が増します。従業員の雇用は原則として維持されますが、事業の縮小に伴う整理が行われる場合があります。

法人破産では、事業が停止しますので、取引は終了し、雇用も終了します。未払の給与については、労働者健康安全機構による未払賃金の立替払制度を利用できる場合があります。手続を選ぶ際には、この三つの影響の差を、関係者の数とともに具体的に見積もってください。

決めるまでに残されている時間の測り方

残された時間は、感覚ではなく、週次の資金繰り表によって測ります。向こう13週について、週ごとの入金と出金を並べ、週末の現預金残高を算出します。残高が事業継続に必要な水準を下回る週が、実質的な期限です。

この期限から逆算します。私的整理を選ぶ場合、対象債権者との協議に3か月から6か月を要します。民事再生を選ぶ場合、申立ての準備に1か月から2か月、予納金の手当てにさらに時間を要します。破産を選ぶ場合も、従業員への説明、資料の整理、予納金の確保に1か月程度を要します。

したがって、資金が尽きる週の3か月前が、方法を決定すべき期限となります。この期限を過ぎますと、選択肢は自動的に破産のみに絞られます。選ばなかったのではなく、選べなくなったという状態です。

なぜ「まだ何とかなる」と考えてしまうのか

着手が遅れる理由は、経営者の性格ではなく、判断の構造にあります。

第一に、資金繰りを日次で見ていることです。目の前の入金で当月の支払を賄えているうちは、危機として認識されません。四半期又は半期の単位で見れば、現預金が一貫して減少していることが明らかであるにもかかわらず、日次の視点ではそれが見えません。

第二に、これまで乗り越えてきたという経験です。過去に何度も資金繰りの山を越えてきた経営者ほど、今回も同じであると考えます。しかし、過去に越えられたのは、金融機関が追加の融資に応じたからであり、その前提が失われていれば結果は異なります。

第三に、着手すれば信用を失うという懸念です。実際には、資金が尽きて支払が止まったときに信用は失われるのであり、その前に手を打つことによって失われるものではありません。準則型の私的整理は、公表されない枠組みとして設計されています。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士が担うのは、13週の資金繰り表と収益力の分析に基づく方法の選定、対象債権者の構成の整理、私的整理を選ぶ場合の枠組みの選択と協議の追行、民事再生又は破産を選ぶ場合の申立ての準備と裁判所への対応、経営者の保証債務の整理との接続、そして従業員及び取引先への説明の設計です。

依頼の時期は、資金繰り表において資金が尽きる週が13週以内に現れた時点、又は金融機関から返済条件の変更を打診された時点です。この段階であれば三つの選択肢がすべて残っています。相談の時点で方法を決めている必要はありません。むしろ、決める前に相談していただくことが適切です。

いま確認していただきたいこと

向こう13週の週次資金繰り表を作成してください。週ごとの入金予定、支払予定、週末残高を記載します。加えて、直近3期の営業損益から、役員報酬の調整額と一時的な損益を除いた正常収益力を算出してください。

債権者の一覧も作成してください。金融機関ごとの残高と保全状況、取引先ごとの買掛金残高、租税及び社会保険料の滞納額、そして経営者が保証している債務の範囲を記載します。この二枚の資料があれば、三つの手続のうちどれを選ぶことができるかは、おおむね判断できます。

よくあるご質問

私的整理と民事再生を同時に検討できますか

できます。実務では、私的整理を先に試み、対象債権者の同意が得られない場合に民事再生へ移行する設計を採ることがあります。ただし、移行の判断期限をあらかじめ定めておかなければ、資金が尽きるまで協議が続きます。

民事再生を申し立てると、取引先はすべて離れますか

離れる取引先と残る取引先に分かれます。代替の効かない技術や供給力を持つ会社であれば、取引は継続されます。申立ての直後に、主要な取引先へ個別に説明を行うことが実務上の要点です。

破産の費用が用意できない場合はどうなりますか

予納金の額は負債総額と事案の内容によって定まります。資産の換価によって賄える場合もありますので、まず資産の一覧を作成してください。何も残っていない状態になる前に相談することが必要です。

会社を破産させると、経営者はもう事業を行えませんか

会社の破産それ自体は、経営者が将来事業を行うことを妨げるものではありません。保証債務についての整理を経て、再び事業に取り組む経営者は現に存在します。

どの方法が最も債権者にとって有利ですか

一般には、事業が継続し収益が確保される方法ほど、債権者への弁済額は大きくなります。したがって、私的整理、民事再生、破産の順に弁済額が大きくなる傾向がありますが、これは事業に収益力が残っている場合に限られます。収益力がない事業を続けることは、債権者の取り分を減らします。

まとめ

三つの手続のうちどれを選ぶかは、経営者が決断する事柄というよりも、数値が示す事柄です。13週の資金繰り表と正常収益力の二つを揃えれば、選ぶことができる範囲は自ずと定まります。範囲が定まっているうちに相談していただくことが、最も大きな違いを生みます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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出典

  • 民事再生法第21条第1項(再生手続開始の申立て)、第25条(再生手続開始の条件)、第33条第1項(再生手続開始の決定)、第174条第1項(再生計画の認可又は不認可の決定)
  • 破産法第15条第1項(破産手続開始の原因)、第30条第1項(破産手続開始の決定)、第252条第1項(免責許可の決定の要件等)
  • 会社法第431条(会計の原則)
  • 中小企業の事業再生等に関するガイドライン(中小企業の事業再生等に関する研究会、令和4年3月公表)

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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