事業再生ADRとは?意味や手続きの流れ、メリット・デメリットを解説

企業のスムーズな再生を促す制度として、事業再生ADR制度が創設されて16年が経過しています。創設当初より、事業再生ADR制度は柔軟な私的整理と公正性が高い法的整理の中間的な仕組みとして期待されています。

事業再生ADRの活用にあたっては、再生計画づくりなどの入念な事前準備や、関係者を説得できるかなどが重要視されています。そこで本記事では、事業再生ADRという用語の意味や手続きの流れ、活用により想定されるメリット・デメリット、実施する際の注意点などをわかりやすく解説します。

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事業再生ADRの概要

本章では、事業再生とADRそれぞれの概要をまとめた後で、事業再生ADRの概要を解説します。

事業再生とは

事業再生とは、採算性や経営状態が芳しくない事業に対して資金調達などを根本から立て直していく手続きのことです。事業再生では、会社の倒産を防ぐために、事業単位で利益率や生産性の低いものを改善しながら、会社全体の再構築を図っていきます。

事業再生の手法は、大まかに法的再生(法的整理)と私的再生(私的整理)に分かれます。法的再生とは、民事再生法などの法律をもとに裁判所の管理下で実施される法的手続きを利用した事業再生の手法です。

法的再生には、企業を立て直す再建型手続きとして位置付けられる民事再生・会社更生・特定調停のほか、会社を畳む清算型手続きである破産・特別清算があります。そのほか、再生型M&Aも法的再生の手法の一つです。

これに対して、私的再生とは、会社と債権者という当事者の間で協議し再建していく事業再生の手法です。私的再生では、法律の制限を受けないことから、個々のケースに適した柔軟な対応ができる反面、「債権者の合意を得られるか」「公平性が保たれるか」といった問題点もあるため、実施にあたっては債権者の協力が必要不可欠です。

ADRとは

ADRとは、「Alternative(代替的)」「Dispute(紛争)」「Resolution(解決)」の頭文字を取った言葉であり、「代替的紛争解決手続」や「裁判外紛争解決手続」などと訳されます。つまり、訴訟手続によらない紛争解決方法のことです。

ADRは、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法 )を根拠法とし、法務大臣の認証を受けた事業者(特定認証紛争解決事業者)がその手続を実施します。

ADRには、あっせん・調停・仲裁などの種類があります。あっせん・調停とは、当事者同士での交渉で解決を図る事を目的とし、あっせん人が間に入って当事者同士の話し合いを進めて解決を図るものです。あっせんはあくまでも当事者同士の話し合いによった解決を目指す制度であり、あっせん人が解決案を提示することもあるものの、当事者はそれに拘束されるわけではなく拒否することが可能です。

これに対して、仲裁とは、事前に当事者同士が仲裁を受けることに同意(仲裁合意)した場合に仲裁人が解決内容を判断するものです。仲裁判断は裁判の判決と同じ効力があり、当事者は拒否できません。また、控訴や上告等の不服申立の制度はなく、仲裁判断がなされた事件について裁判を起こすことはできなくなります。根拠法は仲裁法です。

事業再生ADRとは

事業再生ADRとは、経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者(特定認証紛争解決事業者)が関与することによって、過大な債務を負った事業者が法的整理手続によることなく債権者の協力を得ながら事業再生を図ろうとする取組を円滑化するための制度です。事業再生ADRは、過剰債務に悩む企業の問題を解決するために創設されました。

事業再生ADR手続きの活用目的は、事業価値の著しい毀損によって再建に支障が生じないよう会社更生法や民事再生法などの法的手続によらずに、債権者と債務者の合意に基づき、債務(主として金融債務)について猶予・減免等をすることで経営困難な状況にある企業を再建することです。

準則型私的整理の種類一覧

事業再生ADRは、「準則型私的整理」と呼ばれる手続きの一種です。私的整理手続のうち、根拠法令に基づき制度化され、公正中立な第三者が関与して行われる手続のことです。

準則型私的整理手続には、事業再生ADR手続きのほか、地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援スキーム、中小企業再生支援協議会による協議会スキーム、弁護士会による特定調停スキームなどが挙げられます。中小企業の事業再生の場面では、事業再生ADR手続きのほか、中小企業再生支援協議会による協議会スキームや、弁護士会による特定調停スキームなどの活用が検討されるケースが多いです。

事業再生ADRを利用するための条件

事業再生ADRは、過大な債務を負っている事業者(個人を含む)を広く対象にしています。事業再生ADRの利用に業種や事業規模による制限はなく、中小企業再生支援協議会によるスキームを活用できない団体(例:学校法人、社会福祉法人、常時使用する従業員数が300人超の医療法人など)も利用できます。

ただし、事業再生ADRの利用にあたって、一般社団法人事業再生実務家協会は以下5つの要件を定めています。

  • 過剰債務を主な要因とする経営困難な状況に陥っており、自力による再生が難しい
  • 技術・ブランド・商圏・人材などの事業基盤を有しており、事業に収益性や将来性があるなど事業価値があり、債権者からの支援によって事業再生の可能性がある(例:重要な事業部門で営業利益を計上しているなど)
  • 会社更生や民事再生などの法的整理手続の申立てによって事業再生に支障が生じるおそれがある(例:会社の信用力が低下する、事業価値が著しく毀損されるなど)
  • 事業再生ADRによる事業再生によって、債権者が破産手続を取る場合よりも多い回収を見込める可能性がある
  • 手続実施者選任予定者の意見および助言に基づき、法令適合性、公正・妥当性および経済的合理性があると認められる事業再生計画案の概要を策定する可能性がある

上記の要件を充足しているかどうかは、事前相談の段階で審査されることになります。

事業再生ADR制度を活用するメリット

事業再生ADR制度の活用にあたって期待されるメリットの中から、代表的な6つの内容をピックアップし、順番に解説します。

  • 対象の債権・債権者を選択できる
  • 公正・中立な第三者機関の支援で手続きの安定性を確保できる
  • 事業再生計画を柔軟に策定できる
  • 手続きにかかる期間が短い
  • つなぎ融資を受けやすくなる
  • 税制上の優遇措置を受けられる

対象の債権・債権者を選択できる

事業再生ADR制度は、原則として金融債権者(金融機関等)との間で調整を進める手続であるため、商取引債権者等(取引先等)とは、従来どおり取引を継続することが可能です。

特定の取引先などを債務整理の対象から外せるため、自社およびその取引先では従来どおり円滑な商取引を継続できるメリットが期待できます。

公正・中立な第三者機関の支援で手続きの安定性を確保できる

事業再生ADRでは、債権者と債務者の間に公正・中立な立場の第三者機関である事業再生実務家協会がサポートに入ることで、手続きの透明性が担保されるため、関係者が安心して手続きを進めることが可能です。その結果、債権者全員から事業再生計画案の同意を得られる可能性が高まります。

事業再生計画を柔軟に策定できる

民事再生や会社更生の手続を取る場合、債権カットなどを行う際には、民事再生法や会社更生法に定められた決まりに則って行わなければなりません。

これに対して、事業再生ADRの手続では、債権カットなどに関する明確な決まりが規定されているわけではないため、民事再生や会社公正といった法的整理手続きに比べると、事業再生計画を柔軟に策定しやすい点がメリットです。

当然ながら、事業再生ADRでは一般社団法人事業再生実務家協会が中立・公正な立場から調整を行うため、純粋な私的整理ほどの自由度は認められません。とはいえ、債権者多数の状況のなかで、少しでも柔軟な形で事業再生を実現したい場合、事業再生ADRが有力な選択肢となります。

手続きにかかる期間が短い

事業再生ADRの手続きは、3ヶ月程度で終了することが多いです。手続きに時間がかかりすぎると、その間に事態が悪化して再建ができなくなるおそれがあるため、スピーディーに再建に向けて動き出せることは事業再生ADRの大きなメリットといえます。

つなぎ融資を受けやすくなる

事業再生を成功させるためには、債権カットを実行する前のタイミングで、金融機関からの「つなぎ融資」を確保することが大切です。つなぎ融資とは、一時的に資金繰りが厳しくなった時に受ける融資のことです。つなぎ融資は大きく分類すると運転資金の一つですが、突発的に資金が必要な時に利用すること・売掛金などの原資があることなどが特徴です。

つなぎ融資は財務状況が悪化した法人に対して貸し付けられるため、貸し手となる金融機関を確保しにくいことが問題点として指摘されています。もしも私的整理が頓挫し法的整理に移行してしまうと、つなぎ融資の債権も減免の対象に該当するため、金融機関の立場からも与信を行いにくいという心理が働きます。

ところが、事業再生ADRでは、金融機関からのつなぎ融資を確保しやすくする目的で、以下の仕組みが存在します。

  • 事業の継続に欠かせない資金の借入れに関して、中小企業基盤整備機構の債務保証を得られて中小企業信用保険法の特例が適用される(産業競争力強化法第53条~55条)
  • つなぎ融資の債権は、事業再生ADR手続きに関して優先弁済の対象となる
  • たとえ民事再生や会社更生などに移行したケースであっても、つなぎ融資の債権は裁判所が優先的に取扱うよう配慮される(同法第57条以下)

以上の点から、事業再生ADRを利用する場合には、金融機関からのつなぎ融資を受けやすくなり、事業の再建をスムーズに進めることが可能です。

税制上の優遇措置を受けられる

事業再生ADR制度を活用する場合、再生企業側において資産評価損益の損金算入、期限切れ繰越欠損金の優先適用ができるため、将来の税負担を軽減できます。また、事業再生ADRでは、債権者側においても債権放棄等による損失の損金算入など、双方で税務上のメリットが期待できます。

事業再生ADR制度を活用するデメリット

事業再生ADR制度の活用にはさまざまなメリットが期待できる反面、少なからずデメリットの発生が問題となることもあります。本章では、事業再生ADR制度を活用するデメリットとして、代表的な2つの内容をピックアップし、順番に解説します。

  • 解決案に合意しない債権者がいれば債務整理を実現できない
  • 手続きにかかる費用が高額になりやすい

解決案に合意しない債権者がいれば債務整理を実現できない

事業再生ADRはあくまでも私的整理手続の一種であるため、解決案に合意しない債権者が一人でもいれば債務整理を実現できない点に注意しなければなりません。もしも債権者間の調整が困難な場合には、民事再生などの法的整理手続を検討する必要があります。

手続きにかかる費用が高額になりやすい

事業再生ADR制度の活用にあたっては、事業再生実務家協会に支払う審査料・業務委託金・業務委託中間金・報酬金に加えて、アドバイザーとなる専門家に支払う報酬が高額になりやすいです。そのため、実際には、事業再生ADRを利用しているのは大企業がほとんどという状況が見られます。

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事業再生ADRの活用実態

事業再生ADR制度の活用実績としては、2021年3月までに86件(269社)の手続利用申請が実施されていますが、これは制度創設から約13年間での合計実績であり、年単位にすると平均6.61件(20.69社)とそれほど多い申請数とはいえません。なお、このうち60件(219社)で、私的整理が成立(事業再生計画案に対して、債権者全員が合意)しています。

参考:経済産業省「事業再生ADR制度について」令和3年度

事業再生ADR手続きの流れ

本章では、事業再生ADR手続きの流れを以下5つのステップに沿って解説します。

  1. 申請準備
  2. 利用申請・受理
  3. 「一時停止の通知」の発送
  4. 債権者会議の開催(概要説明・協議・決議)
  5. 事業再生計画の実行

それぞれのプロセスを順番にわかりやすく解説します。

申請準備

まずは顧問弁護士などと相談したうえで、債務者である会社全体のデューデリジェンス(企業の経営状況や財務状況などを調査すること)等を実施し、事業再生計画案の策定を中心とした申請準備を進めます。

事業再生ADRでは、経済産業省関係産業競争力強化法施行規則(以下、「経産省令」という)に従った事業再生計画案を策定する必要があります。事業再生計画案の策定は債務者自身が行うもので、通常は代理人の助言や業務支援を受けて行われます。

事業再生ADRで必要となる事業再生計画案は、次の事項を含むものでなければなりません (経産省令第28条)。

  • 経営が困難になった原因(1項1号 )
  • 事業の再構築のための方策(1項2号)
  • 自己資本の充実のための措置(1項3号)
  • 資産および負債ならびに収益および費用の見込みに関する事項 (1項4号)ただし、次の各号に掲げる要件を満たすものでなければならない(2項)
    • a.債務超過の状態にあるときは、事業再生計画案にかかる合意が成立した日の後、最初に到来する事業年度開始の日から、原則として3年以内に債務超過の状態にないこと(2項1号)
    • b.経常損失が生じているときは、事業再生計画案にかかる合意が成立した日の後、最初に到来する事業年度開始の日から、原則として3年以内に黒字になること(2項2号)
  • 資金調達に関する計画(1項5号)
  • 債務の弁済に係る計画(1項6号)
  • 債権者の権利の変更(1項7号 )債権者の権利の変更の内容は、債権者の間では平等でなければならない。ただし、債権者の間に差を設けても衡平を害しない場合は、この限りでない( 3項 )
  • 債権額の回収の見込み(1項8号)債権額の回収の見込みは、破産手続きによる債権額の回収の見込みよりも多くなければならない(4項)

また、事業再生計画案が債権放棄を伴うケースでは、その事業再生計画案には以下の事項を含める必要があります(経産省令29条1項)。

  • 債務者の有する資産および負債につき、経済産業大臣が定める基準(ADR資産評定基準)による資産評定が公正な価額によって行われ、当該資産評定による価額を基礎とした当該債務者の貸借対照表が作成されていること(1項1号)
  • 前記の貸借対照表における資産および負債の価額ならびに事業再生計画案における収益および費用の見込み等に基づいて債務者に対して債務の免除をする金額が定められていること(1項2号)
  • 株主の権利の全部または一部の消滅(事業の再生に著しい支障を来すおそれがある場合を除く)(1項3号)
  • 役員の退任(事業の再生に著しい支障を来すおそれがある場合を除く)(1項)

利用申請・受理

続いて、債務者が特定認証紛争解決事業者に対して、事業再生ADR制度の利用を申請します。この申請により、事業再生実務家協会によって事業再生ADR制度の利用に適した事案かどうかの審査が実施され、認められた場合は申請が受理されます。

「一時停止の通知」の発送

申請が受理された後は、特定認証紛争解決事業者と債務者企業の連名で事業再生ADRの対象となる債権者に対して、一時停止の通知(債権の回収、担保権の設定や破産手続、再生手続、更生手続、特別清算の開始を申立てないよう通知)を行います。

債権者会議の開催(概要説明・協議・決議)

債権支払いの一時停止手続きを行った後は、事業再生ADRの対象となる債権者を集めて債権者会議を開催します。債権者会議は3回に分けて開催され、1回目が概要説明、2回目が協議、3回目が決議を行います。

債権者会議の内容を具体的に説明すると、1回目の開催では、債務者が資産・負債の状況・事業再生計画案の概要を説明した後、質疑応答や債権者間の意見交換を実施します。また、議長や手続実施者(弁護士等)の選任・一時停止の具体的内容と期間・次回以降の債権者会議の開催日時と開催場所について決議を行います。

2回目の債権者会議では、手続実施者により、事業再生計画案が「公正かつ妥当で経済的合理性を有するか」について意見の陳述が行われます。そして、3回目の債権者会議では、事業再生計画案について決議を行います。

一時停止の通知を発送してから、2週間以内に1回目の債権者会議を開催しなければならない点に注意しましょう。

債権者会議に出席した全債権者から事業再生計画の同意が得られれば、事業再生ADRが成立し再生計画が実行されますが、1人でも反対が出れば事業再生ADRは不成立となり、法的再生手続きに移行することになります。

事業再生計画の実行

債権者会議で決議された事業再生計画に基づき、債務者企業が実際に事業の再建や債務の返済などを行います。

事業再生ADR手続きを行う際の注意点

事業再生ADR制度は法的再生に比べると柔軟性が高いものの、それでも第三者機関(特定認証紛争解決事業者)の仲介や専門家の監督などが行われる分だけ通常の私的再生に比べると柔軟性が低いと考えられています。

つまり、事業再生ADRでは、通常の私的再生のように債権者と1対1で話し合う方法と比べると柔軟性に欠ける点に注意しましょう。

事業再生ADR手続きについて弁護士に相談するメリット

本章では、事業再生ADR手続きについて弁護士に相談する主なメリットを3つ紹介します。

  • 各債務整理手法の特徴を比較しながら選択する手続きを決められる
  • 債務者の立場に寄り添った支援を提供してもらえる
  • 煩雑な手続きを任せられる

各債務整理手法の特徴を比較しながら選択する手続きを決められる

事業再生の手段としては、事業再生ADR手続き以外にもさまざまな種類が存在します。債務者の状況によって適切な手続きは異なりますが、弁護士は各手続きのメリット・デメリットを比較したうえで、どの手続きを選ぶべきかについて適切なアドバイスを行うことが可能です。

債務者の立場に寄り添った支援を提供してもらえる

あくまでも事業再生実務化協会は中立・公正な第三者機関であるため、債務者の代理人として行動してくれるわけではありません。

これに対して、弁護士は債務者の代理人という立場から、「債務者にとってベストな解決策は何か?」という観点で親身になってアドバイス・支援を提供します。

煩雑な手続きを任せられる

事業再生ADR制度を活用する際は、専門性が高いうえに煩雑な手続きを済ませる必要があるため、実施を検討する段階で早めに弁護士に相談することが望ましいです。弁護士に相談・依頼をすることで、事業再生ADR制度の活用に必要な手続きの大部分を代行してもらえるため、債務者の負担を大きく軽減できます。

事業再生ADRの事例

最後に、これまで実際に事業再生ADR制度を活用したことがある企業の事例を5つピックアップし、順番に解説します。

株式会社文教堂グループホールディングス

株式会社文教堂グループホールディングスは、出版・書店事業を展開する企業グループですが、ネット通販やデジタルコンテンツが普及したことによる書籍市場の縮小の影響で業績が悪化したことで債務超過となり経営再建が必要となったため、2019年に事業再生ADRを申請して債権者との協議を行いました。

具体的には、文教堂グループホールディングスは、債権者に対し、債務超過状態の解消や事業再生のための再生計画を提示しています。再生計画には、出版部門の事業縮小や撤退、書店事業の見直し、財務面の改善などが含まれました。債権者との交渉を経て事業再生計画は承認され、結果として同社は取引金融機関の債務41億円を株式化し、日本出版販売株式会社から5億円の第三者割当増資を受けています。

この事例において、同社は事業再生ADR手続きを選択することで、裁判所による再生手続きよりも迅速に再建を目指すことができたほか、上場の維持も実現しています。

マレリホールディングス株式会社

マレリホールディングス株式会社は、自動車部品の製造販売を手がける「マレリ株式会社」の持株会社です。

同社は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、取引先の自動車メーカーからの受注が減少したことで、売上減少や債務超過に陥る可能性が高まったために、2022年に事業再生ADRの利用を決めています。

しかし、一部の金融機関から合意が得ることができなかったため、法的整理で民事再生の一種である簡易再生に向けた手続きを実施しています。

曙ブレーキ工業株式会社

曙ブレーキ工業株式会社は、自動車等のブレーキを製造販売している会社です。

近年、同社では北米における生産混乱に起因する業績悪化の立て直しに取り組んでいましたが、米国メーカーの乗用車生産からの撤退、次期モデル用ブレーキ製品の受注を逃したことなど、同社グループの経営環境や財務体質が厳しい状況に陥ったことで、単独での事業回復が難しくなったために、2019年に事業再生ADR制度の利用を申請しました。

その結果、取引先金融機関から560億円の債務免除を受け、ジャパン・インダストリアルソリューションズより200億円の第三者割当増資を受けています。

同社では、事業再生ADR手続きを利用し、関係当事者である金融機関の合意のもとで、今後の再成長に向けた収益体質の確立と財務体質の抜本的な改善を目指しています。

株式会社倉元製作所

株式会社倉元製作所は、薄型テレビ用ガラス基板を開発・製造・販売している会社です。

2014年以降、同社では液晶業界の有力企業が経営不振に陥り、三重工場の発注がなくなるなど赤字が継続し、2018年に債務超過に陥ったために、事業再生ADR制度の利用を申請しました。

その結果、取引先金融機関から11億円の債務免除を受け、ニューセンチュリー有限責任事業組合から7億円の第三者割当増資を受けています。

株式会社クラフト

株式会社クラフトは、さくら薬局を中心とする調剤薬局事業を展開している会社です。

同社は中小の調剤薬局メーカーをM&Aするなど積極的に店舗数を拡大させてきましたが、M&A資金など旺盛な資金需要に対応するため金融機関からの借入が嵩み、その返済負担が経営の重荷となっていたようです。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響により調剤報酬が大幅に落ち込み資金繰りが悪化し、リファイナンスの調整も難航したために、2022年に事業再生ADR制度の利用を申請しました。

事業再生ADR制度の活用にあたって、同社では金融機関に対して債権カットは求めず、今後の返済額や期間の変更を求めるとされています。

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まとめ

事業再生ADRとは、経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者が関与することによって、過大な債務を負った事業者が法的整理手続によることなく債権者の協力を得ながら事業再生を図ろうとする取組を円滑化するための制度です。

事業再生ADR制度を活用することで、公正・中立な第三者機関の支援で手続きの安定性を確保できたり、つなぎ融資を受けやすくなったりするメリットがある一方で、解決案に合意しない債権者がいれば債務整理を実現できなかったり、手続きにかかる費用が高額になりやすかったりするデメリットが発生するおそれがある点に注意が必要です。

事業再生ADR制度を活用する際は、専門性が高いうえに煩雑な手続きを済ませる必要があるため、実施を検討する段階で早めに弁護士に相談しましょう。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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