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本ページは、資金繰りが悪化した会社の事業再生、債務の整理及び法人破産に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
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本社工場の登記事項証明書を取り寄せたところ、甲区に差押えの登記が入っていた。あるいは、主要な販売先から「銀行を名乗るところから通知が届いたが、支払先はどちらになるのか」という問合せが入った。担保に取られている資産が現実に押さえられ始めたときは、このような形で外部から知らされることが少なくありません。
金融機関は、貸付けの時点で不動産に根抵当権を設定し、預金を相殺の引当てとし、売掛金に集合債権譲渡担保を設定しています。平時にはこれらの権利が行使されることはありません。しかし、期限の利益が失われた後は、これらは順序を決めて行使される回収手段に変わります。行使の順序は偶然ではなく、換価に要する時間と確実性によって決まっています。
結論から申し上げます。担保権の実行は資産の種類ごとに手続も所要期間もまったく異なりますので、一律に対応するのではなく、事業の継続に不可欠な資産から順に守る設計をしなければなりません。破産法第65条第1項は、別除権は破産手続によらないで行使することができると定めており、民事再生法第53条第2項も同旨を定めています。手続を申し立てても担保権は止まらないという前提から出発します。以下、順にご説明します。
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担保に取られた資産を守る作業は、債務の交渉そのものとは目的が異なりますので、次のとおり切り分けます。
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担保権の実行は、どこから始まるのか
担保権の実行の起点は、資産の種類によって異なります。不動産であれば、債権者が管轄の地方裁判所に競売の申立てを行い、裁判所が開始決定をした時点です。預金であれば、金融機関が相殺の意思表示を発した時点です。売掛金であれば、譲渡担保に基づく取立ての通知が第三債務者に到達した時点、又は債権差押命令が第三債務者に送達された時点です。
民法第369条第1項は、抵当権者は債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有すると定めています。担保権者が優先弁済を受ける根拠はここにあります。
実行の兆候は、登記と通知に現れます。会社の所有する不動産の登記事項証明書を定期的に取得すること、そして取引先からの問合せの内容を経理部門に集約することが、初期の把握の方法です。
不動産、預金、売掛金で手続がまったく違います
三つの資産は、押さえられる速さも、取り戻せる余地も異なります。
不動産は最も時間がかかります
民事執行法第43条第1項は、不動産に対する強制執行は強制競売又は強制管理の方法により行うと定めています。同法第45条第1項は、執行裁判所は強制競売の手続を開始するには開始決定をし、その開始決定において債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言しなければならないと定めています。担保不動産競売についても、同法第188条により、これらの規定が準用されます。開始決定の後、現況調査、評価、物件明細書の作成、期間入札の公告という工程を経ますので、申立てから売却までには相応の期間を要します。
預金は最も速く失われます
預金は、裁判所を通さずに、金融機関の相殺の意思表示のみで消えます。手続に要する時間はほとんどありません。担保権の実行という言葉から想起される競売の手続とは、まったく性質が異なります。
売掛金は取引先に知られます
民事執行法第143条は、金銭の支払を目的とする債権に対する強制執行は執行裁判所の差押命令により開始すると定めています。同法第145条第1項は、執行裁判所は差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならないと定めています。債権を目的とする担保権の実行についても、同法第193条第2項によりこれらの規定が準用されます。差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生じます。
差押えの通知が取引先へ届く前にすべきこと
売掛金が押さえられた場合の損害は、回収できなかった金額にとどまりません。取引先は、通知を受け取った時点で、当社の資金繰りが破綻していると判断します。以後の受注が止まり、前払の要求が始まり、他の仕入先にも情報が伝わります。
したがって、売掛金への差押えが予想される場合には、その前に主要な取引先へ自ら説明を行うかどうかを判断する必要があります。判断の基準は、当該取引先との取引を今後も継続する必要があるかどうかです。継続する必要がある相手には、通知が届く前に、当社の状況と今後の方針を直接伝えます。継続の必要がない相手には、あえて先に伝える実益はありません。
あわせて、集合債権譲渡担保の設定契約書を確認してください。対抗要件が債権譲渡登記により具備されているのか、確定日付のある通知によるのかによって、取引先が事実を知る時期が変わります。登記による場合、担保権者が取立ての通知を発するまでは取引先に知られません。
競売の開始から売却までに要する期間
不動産競売は、申立てから代金の納付まで、標準的には10か月から1年半程度を要します。この期間は、単に待つための時間ではなく、任意の売却を実現するための交渉の時間として使うことができます。
工程は次のとおりです。競売の申立て、開始決定と差押えの登記、執行官による現況調査と評価人による評価、売却基準価額の決定、物件明細書等の備置き、期間入札の公告、入札期間、開札、売却許可決定、代金の納付、そして買受人への所有権の移転です。会社が占有を続けている状態であれば、代金納付の時点まで工場の稼働を続けることが可能な場合があります。
この期間を活かすためには、開始決定を受けた直後から、任意の売却先の探索と、担保権者との協議を並行して進める必要があります。開札の直前に交渉を始めても、間に合いません。
任意の売却により、より高く処分する方法
競売による売却価額は、市場価格を下回るのが通常です。買受人は、内覧が制限されること、瑕疵に関する売主の責任を追及できないこと、明渡しに手間を要することを織り込んで入札するためです。任意の売却であれば、これらの減価要因を取り除くことができます。
任意の売却を実現するためには、担保権者の全員から抵当権の抹消の同意を得る必要があります。順位が後の担保権者は、配当を受けられない場合であっても抹消に同意する必要がありますので、実務上は判子代と呼ばれる一定額の支払を協議します。
破産手続に移行した後であっても、任意の売却の道は残されています。破産法第186条第1項は、破産財団に属する財産につき担保権が存する場合において、当該財産を任意に売却して担保権を消滅させることが破産債権者の一般の利益に適合するときは、破産管財人は裁判所に対し担保権消滅の許可の申立てをすることができると定めています。
別除権に関する協定という考え方
事業を継続したまま再生を図る場合、担保権が実行されれば事業の基盤が失われます。そこで、担保権者との間で、担保権を実行しないことと引換えに、一定額を分割して弁済する旨の合意を結びます。これを別除権に関する協定と呼びます。
合意の内容は、担保物件の評価額、その額を何年で弁済するか、弁済期間中は担保権を実行しないこと、弁済が滞った場合には担保権を実行できること、という四点で構成されるのが通常です。評価額の算定について争いが生じますので、不動産鑑定士の評価書を用意することが実務上は有用です。
合意が整わない場合には、民事再生法第148条第1項の担保権消滅の許可の申立てを検討します。同項は、再生債務者の財産につき担保権が存する場合において、当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできないものであるときは、再生債務者等は裁判所に対し、当該財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付して担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができると定めています。ただし、価額に相当する金銭を一括して納付する必要がありますので、資金の手当てが前提となります。
事業の継続に不可欠な資産をどのように守るのか
守るべき資産を選ぶ作業から始めます。事業を継続するために欠くことのできない資産と、そうでない資産とを分け、前者に交渉の資源を集中します。工場、主要な機械設備、事業所の賃借権、そして売掛金の回収の流れがこれに当たります。遊休地、社宅、投資用不動産は、原則として先に処分の対象とします。
次に、担保権者ごとに保全の状況を整理します。担保物件の評価額が被担保債権額を上回っている場合、担保権者は実行によって全額を回収できますので、交渉の余地は小さくなります。逆に、評価額が被担保債権額を下回っている場合、担保権者は不足額について一般の債権者と同じ立場に立ちます。この場合には、事業を継続した方が回収額が増えるという説明が説得力を持ちます。
なお、担保物件が売却され、又は賃貸された場合には、民法第304条第1項により、先取特権はその目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使することができ、同法第372条によりこの規定は抵当権に準用されます。物件を処分すれば担保から逃れられるわけではありません。
なぜ金融機関は預金から先に取るのか
回収の順序が預金から始まるのには、明確な理由があります。第一に、費用がかからないことです。競売の申立てには予納金と登録免許税を要しますが、相殺には費用が発生しません。第二に、時間がかからないことです。意思表示のみで完結します。第三に、金額が確実であることです。不動産の売却価額は事前に確定しませんが、預金残高は明らかです。
次に選ばれるのが売掛金です。第三債務者である取引先が支払能力を有する限り、回収は確実です。不動産が最後になるのは、換価に時間と費用を要し、価額も変動するためです。
この順序を理解しますと、対応の優先順位が定まります。預金は、通知を受けた時点で既に失われている可能性が高い資産です。守る対象は、売掛金の流れと、事業の基盤となる不動産及び設備です。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
弁護士が担うのは、登記事項証明書と担保設定契約書に基づく保全状況の一覧の作成、担保物件の評価の検証、任意の売却の枠組みの設計と担保権者との交渉、別除権に関する協定の締結、担保権消滅の許可の申立て、そして取引先への説明の順序の設計です。取引先や第三債務者からの問合せに対する窓口を代理人が引き受けることもできます。
依頼の時期は、期限の利益の喪失の通知を受けた時点、又は担保物件の評価の依頼が金融機関から入った時点です。金融機関が外部の業者に評価を依頼したという情報は、実行の準備が始まった徴表です。競売の開始決定が出た後でも打てる手はありますが、選択肢は確実に減ります。
いま確認していただきたいこと
会社が所有する不動産の全部について、登記事項証明書を取得してください。乙区の担保権の順位、被担保債権の極度額、そして甲区に差押え又は仮差押えの登記が入っていないかを確認します。
あわせて、金融機関ごとに、預金残高、貸付残高、担保物件、そして集合債権譲渡担保の有無と対抗要件の具備の方法を一覧にしてください。売掛金については、取引先ごとの残高と回収サイトを書き出し、いずれの取引先を失うと事業が止まるかを特定してください。
よくあるご質問
民事再生を申し立てれば、競売は止まりますか
止まりません。民事再生法第53条第1項は担保権を有する者はその目的である財産について別除権を有すると定め、同条第2項は別除権は再生手続によらないで行使することができると定めています。止めるためには、別除権に関する協定を結ぶか、担保権消滅の許可を得る必要があります。
差押えを受けた売掛金は、もう回収できませんか
差押命令が第三債務者に送達された後は、当社が取り立てることはできません。ただし、差押えの効力は送達の時点で存在する債権に及びますので、その後に発生する売掛金の取扱いは、担保の設定の範囲によって判断が分かれます。契約書の文言を確認する必要があります。
担保に入っている工場を売却したいのですが
担保権者全員の同意を得て抵当権を抹消することが前提となります。売却価額から抹消に必要な弁済額を支払う枠組みを設計し、担保権者に事前に提示します。同意が得られないまま売却しても、抵当権は消滅しません。
相殺されないように預金を移してよいですか
事業に必要な資金を、事業に必要な範囲で移すことは問題ありません。もっとも、返済を止める直前に多額の預金を他行へ移す行為は、後の手続において説明を求められます。移す理由と時期を記録に残してください。
担保物件の評価額に納得できません
金融機関の評価は、担保処分を前提とした保守的な価額であることが通常です。不動産鑑定士による鑑定評価書、又は複数の不動産業者による査定書を用意し、根拠を示して協議してください。評価額は、別除権に関する協定の弁済額を左右する数値です。
まとめ
担保権の実行が始まっても、すべての資産が同時に失われるわけではありません。資産ごとに残された時間は異なり、その時間の長さに応じて打てる手も異なります。事業の基盤となる資産を特定し、そこに交渉を集中させることが要点です。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
担保権の実行に関するご相談
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受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 民法第304条第1項(物上代位)、第369条第1項(抵当権の内容)、第372条(留置権等の規定の準用)
- 民事執行法第43条第1項(不動産執行の方法)、第45条第1項(開始決定等)、第143条(債権執行の開始)、第145条第1項(差押命令)、第188条(不動産執行の規定の準用)、第193条第2項(債権及びその他の財産権についての担保権の実行の要件等)
- 破産法第65条第1項(別除権)、第186条第1項(担保権消滅の許可の申立て)
- 民事再生法第53条第1項及び第2項(別除権)、第148条第1項(担保権消滅の許可等)
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