金融機関から期限の利益の喪失及び一括の返済を求められた会社の弁護士対応

特定記録郵便で届いた一枚の書面に、「金銭消費貸借契約証書第○条各号に該当したことにより、当行に対する一切の債務につき期限の利益を喪失した」と記され、残元金、経過利息及び遅延損害金の合計額と、指定期日までに全額を支払うよう求める文言が並んでいます。手形の不渡り、他行への返済遅延、あるいは決算書の提出遅延が引き金になっている例が多く見られます。

返済が数日遅れただけで直ちにこの通知が発せられるわけではありません。金融機関は、内部の債務者区分の見直しと保全状況の確認を経て、回収の方針を固めた段階で通知を発します。したがって、この書面が届いた時点で、相手方の側では既に一定の判断が済んでいます。会社の側だけが、突然の出来事として受け取ることになります。

結論から申し上げます。この通知が届いた日から、会社が自らの意思で選ぶことのできる手段は日ごとに減っていきますので、支払を止めるか続けるかの仕分けを最初の週に終える必要があります。民法第137条は期限の利益を主張することができない場合を定めていますが、金融機関の契約書はこれより広い喪失事由を約定しているのが通常です。以下、順にご説明します。

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一括の返済を求める通知への対応は、担保の実行や保証の処理とは別の作業ですので、次のとおり切り分けます。

通知が届いた日から、動かすことができる時間は限られます

期限の利益を失った瞬間から、債務は全額が弁済期にあるものとして扱われます。民法第412条第1項は、債務の履行について確定期限があるときは、債務者はその期限の到来した時から遅滞の責任を負うと定めています。全額が弁済期にある以上、翌日から全額について遅滞となります。

遅延損害金は、民法第419条第1項により、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定められ、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によります。金融機関の契約書は年14パーセント前後の遅延損害金を約定していることが多く、残債務が1億円であれば1日あたりおよそ3万8,000円が加算される計算になります。時間そのものが費用として積み上がる状態です。

最初の一週間で決めるべきは三点です。どの支払を止めるか、どの取引先に何をいつ伝えるか、そして再交渉を試みるか法的整理へ進むかの見極めの期限をいつに置くかです。この三点を決めずに個別の問合せに対応し続けますと、判断の材料が揃わないまま日数だけが経過します。

期限の利益の喪失には二つの型があります

金融機関の契約書は、喪失事由を二段構えで定めているのが通例です。この区別は、通知の効力がいつ生じたかを判断する前提となりますので、必ず条文にあたって確認してください。

当然喪失事由

当然喪失事由は、その事実が生じたことによって、金融機関の意思表示を待たずに当然に期限の利益が失われるものです。破産手続開始、再生手続開始又は特別清算開始の申立て、手形交換所の取引停止処分、差押え又は仮差押えの命令の発送、他の債務についての強制執行の着手などが列挙されるのが通常です。民法第137条第1号が破産手続開始の決定を受けたときを掲げているのと同じ発想に立ちますが、契約による事由の範囲はこれより広くなっています。

請求喪失事由

請求喪失事由は、金融機関が請求をしたことによって初めて期限の利益が失われるものです。分割金の履行遅滞、担保物件に対する差押え、財務状況の悪化、契約条項への違反、報告義務の不履行などが挙げられます。民法第137条第2号及び第3号は、債務者が担保を滅失させ、損傷させ、若しくは減少させたとき、又は担保を供する義務を負う場合にこれを供しないときを掲げており、契約上の請求喪失事由もこれに沿った内容を含みます。この型であれば、請求が到達した日が起算点となります。

契約書のどの条項が根拠となっているか

通知書には根拠条項の番号のみが記載され、その内容までは書かれていないことが少なくありません。金銭消費貸借契約証書、銀行取引約定書、保証書、根抵当権設定契約証書の四点を並べ、通知書が引用する条項を実際に読んでください。

確認すべき点は四つです。第一に、援用された事由が当然喪失か請求喪失かです。第二に、その事由に該当する事実が実際に生じているかです。決算書の提出遅延を理由とする場合、提出期限の定めと実際の提出日を照合します。第三に、通知の宛先と到達の日です。第四に、当該通知が対象としている債務の範囲です。一部の貸付けのみを対象とする通知であるのに、全債務が失効したと誤解して対応する例があります。

該当事実に争いがある場合には、その旨を書面で速やかに指摘してください。指摘をしないまま一括弁済の交渉に入りますと、事実関係を争わない前提が固まります。

直ちに止めるべき支払と、続けるべき支払

資金が限られる局面では、支払の順序を意識的に組み替える必要があります。基本の考え方は、事業の継続に不可欠なものを続け、それ以外を止めるという一点です。

続けるべきものは、従業員の給与、社会保険料、事業の継続に必要な仕入代金、賃料、水道光熱費及び通信費です。これらを止めますと、事業そのものが数日で停止し、後にどの手続を選んでも実現できる価値が失われます。

止めるべきものは、期限の利益を喪失した金融機関に対する返済です。ここで注意を要するのは、預金口座を同じ金融機関に置いたままにしておくと、民法第505条第1項により、双方の債務が弁済期にあるときは対当額について相殺をすることができるため、口座残高が貸付金に充当されるという点です。給与の振込口座を別の金融機関に移す作業は、通知が届いた日のうちに着手してください。

止めてはならないものとして、租税及び社会保険料があります。これらは滞納処分による差押えの対象となり、私的整理の合意によっても減免されません。

返済の条件の変更を求める場合に用意する資料

一括の返済に応じることができない場合、返済条件の変更を求めることになります。口頭の要請だけでは検討の対象になりませんので、書面一式を揃えて提出します。

必要となるのは、直近3期の決算書及び勘定科目内訳明細書、月次の試算表、向こう13週間の週次資金繰り表、向こう3年の事業計画、金融機関別の借入金一覧と保全状況の一覧、そして担保物件の一覧と直近の評価資料です。週次の資金繰り表は、日々の入出金の見通しを示すものであり、これがないと金融機関は判断ができません。

事業計画には、赤字の原因と、それを解消するために実施する施策を、金額と時期を付して記載します。役員報酬の減額、不採算部門の縮小、遊休資産の売却といった自助努力の内容を先に示すことが、協議の入口となります。

他の金融機関及び取引先への説明の順序

複数の金融機関と取引がある場合、一行に対してだけ説明を行うことは適切ではありません。ある行が返済を止められたことを知れば、他の行は自行の保全を急ぎます。結果として、預金の相殺や担保権の実行が同時に起きます。

実務上は、全行に対して同じ日に同じ資料を提示し、同じ内容を説明する方法が採られます。これをバンクミーティングと呼びます。個別に条件が異なる説明を行いますと、後に合意を形成することが困難となります。

取引先への説明は、金融機関への説明と同じ時期に行うものではありません。仕入先に対して支払の遅延を伝えれば、直ちに出荷が止まる可能性があります。取引先への連絡は、資金繰りの見通しが立ち、どの支払を継続できるかが確定してから、対象と内容を絞って行います。

法的整理へ移る判断の目安

返済条件の変更の協議には時間の限界があります。次のいずれかに該当した場合には、法的整理への移行を具体的に検討することになります。第一に、主要行が条件変更に応じない意向を明確にしたとき。第二に、他の債権者が差押えの申立てに着手したとき。第三に、13週の資金繰り表において、事業の継続に必要な支払を賄えない週が生じることが確定したときです。

民事再生法第21条第1項は、債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき、又は債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときに、再生手続開始の申立てをすることができると定めています。事業を継続したまま債務を圧縮する余地は、この段階でこそ残っています。

他方、事業の継続によって損失が拡大する状態であれば、破産法第30条第1項に基づき、裁判所は破産手続開始の原因となる事実があると認めるときに破産手続開始の決定をします。いずれを選ぶかの判断は、資金繰り表の数値によって行うものであり、心情によって行うものではありません。

なぜ金融機関は一括の返済を求めるのか

金融機関が全額の即時弁済を求めるのは、実際に全額が回収できると考えているからではありません。目的は三つあります。第一に、期限の利益を喪失させることで、担保権の実行と相殺の法的な前提を整えることです。第二に、他の債権者に先んじて保全を確保することです。第三に、内部の手続として、回収方針の変更を記録に残すことです。

したがって、一括弁済の要求に対して「払えません」と回答するだけでは、協議は始まりません。求められているのは、回収可能額の見通しを示す資料です。清算した場合の回収額と、事業を継続した場合の回収額とを並べて示すことが、条件変更の協議に入るための実質的な条件となります。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士が担うのは、契約書の条項の確認と喪失事由の該当性の検討、支払の仕分けの設計、13週資金繰り表を用いた工程の管理、全行に対する説明の場の設営と進行、条件変更の申入書の作成、そして協議が整わない場合の法的整理への切替えです。金融機関からの連絡窓口を代理人に一本化することにより、経営者は事業の継続に時間を割くことができます。

依頼の時期は、通知が届いた日、又はその予兆として担当者から本部協議の連絡を受けた日です。この段階であれば、私的整理の枠組みも、事業を残したままの法的整理も選択肢に残っています。差押えが始まってからでは、選ぶことのできる手段が限られます。

いま確認していただきたいこと

まず、通知書の原本と封筒を保管し、到達の日を記録してください。次に、通知書が援用する条項を契約書で特定し、当然喪失と請求喪失のいずれであるかを書き出してください。

あわせて、当該金融機関に置いている預金口座の残高と、給与、社会保険料、主要な仕入代金の引落口座を一覧にしてください。相殺の対象となり得る残高がどこにいくらあるかを把握することが、最初の実務です。そのうえで、向こう13週の週次資金繰り表の作成に着手してください。

よくあるご質問

通知を無視した場合、どうなりますか

放置しますと、預金との相殺、担保権の実行、保証人への請求が順次進みます。回答をしないこと自体に法的な制裁はありませんが、協議に入る機会を失います。

一部だけ返済すれば、期限の利益は戻りますか

自動的には戻りません。期限の利益の回復は、金融機関との新たな合意によります。一部の返済を行う場合には、その返済が何に充当され、期限の利益についてどのような取扱いとなるのかを、書面で確認してください。

他の金融機関にはいつ伝えるべきですか

資料が整い次第、全行に同時に伝えることが原則です。時間差が生じますと、先に知った行が保全を急ぎ、結果として資金が失われます。

手形が不渡りになると、どうなりますか

6か月以内に2回の不渡りを出しますと、手形交換所の取引停止処分を受けます。これは多くの契約書において当然喪失事由とされていますので、他の金融機関との関係でも直ちに期限の利益を失うことになります。

従業員の給与は支払ってよいのですか

支払ってください。給与は事業の継続に不可欠であり、また法的整理へ移行した場合にも優先的な取扱いを受ける性質の債権です。給与の振込口座が相殺の対象となる金融機関にある場合には、口座の変更を先に行ってください。

まとめ

期限の利益の喪失は、終わりの通知ではなく、対応の起点です。何を止め、何を続け、誰にいつ伝えるかを最初の週に決めることができれば、事業を残したまま債務を整理する道は残ります。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

  • 民法第137条(期限の利益の喪失)、第412条第1項(履行期と履行遅滞)、第419条第1項(金銭債務の特則)、第505条第1項(相殺の要件等)
  • 破産法第30条第1項(破産手続開始の決定)
  • 民事再生法第21条第1項(再生手続開始の申立て)

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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