会社の資金繰りが悪化し経営者保証の請求が心配な場合の弁護士対応

取引銀行との月次の面談で、来期の資金繰り表を示したところ、担当者から「本部と協議します」と告げられ、その数日後に支店長が同席する場に呼ばれた。会社の借入金には代表者個人の連帯保証が付されており、自宅にも根抵当権が設定されている。会社の債務の話をしているはずが、途中から個人資産の話に移り、配偶者名義の預金の有無まで問われた、という状況で本記事をお読みの方が多いと存じます。

中小企業の融資では、代表者が会社の借入金を連帯保証している例が大半を占めます。会社が返済を続けている間、保証は書面上の存在にとどまり、意識される機会がほとんどありません。ところが、会社の資金繰りが悪化した瞬間に、金融機関の関心は会社の再建可能性から、保証人個人の資力へと移ります。

結論から申し上げます。経営者保証の処理は、会社の整理の方法を決める前に着手すべき事項であり、順序を誤ると、本来手元に残すことができたはずの財産を失います。保証債務の履行を求められる場面では、民法第446条第1項が定める保証人の責任の内容と、「経営者保証に関するガイドライン」に基づく整理の可否とを、同時に検討する必要があります。以下、順にご説明します。

本記事が扱う場面と、関連する記事

保証人個人の問題と、会社の債務の問題とは、扱う条文も検討の順序も異なりますので、次のとおり切り分けます。

会社の資金繰りと、経営者個人の財産は別に考えます

会社と代表者個人は、法律上、別の権利主体です。会社が支払不能に陥ったことは、それだけでは代表者個人が支払不能に陥ったことを意味しません。両者を結び付けているのは、連帯保証契約という一本の合意にすぎません。ここを混同したまま金融機関と話を進めますと、会社の窮状を説明する過程で、個人資産の一覧を求められるままに提出してしまうことになります。

実務では、着手の初日に、会社の資産負債の一覧と、代表者個人の資産負債の一覧とを、別の紙で作成します。個人の側には、自宅不動産、預貯金、生命保険の解約返戻金、自動車、有価証券、退職金の見込額、そして会社に対する貸付金と役員報酬の未払分を並べます。この二枚が分かれていない状態で交渉に入ることが、最も多い失敗です。

民法第446条第1項は、保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任を負うと定めています。責任の範囲は保証契約の内容によって画されますので、まず契約書の写しを金融機関から取り寄せ、保証の対象となる債務の範囲と、極度額の定めの有無を確認します。

保証債務が現実の請求に変わる時点

連帯保証は、契約の時点で成立していますが、保証人が現実に支払を求められるのは、主たる債務者である会社が履行を怠り、かつ債権者が保証人に対して請求をした時点です。会社の返済が滞った翌日に自動的に保証人の預金が引き落とされるわけではありません。この時間の幅が、保証人にとっての準備期間となります。

催告の抗弁と検索の抗弁が使えない理由

民法第452条は、債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人はまず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができると定めます。民法第453条は、保証人が主たる債務者に弁済の資力があり執行が容易であることを証明したときは、債権者はまず主たる債務者の財産について執行をしなければならないと定めます。もっとも、金融機関の保証は連帯保証とされているのが通常であり、連帯保証人はこれらの抗弁を主張することができません。契約書に「連帯して保証する」との文言があるかどうかを最初に確認してください。

根保証の極度額を確認します

一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証であって、保証人が法人でないものは、民法第465条の2第1項により、極度額を限度として責任を負うものとされ、同条第2項により、極度額を定めなければその効力を生じません。平成29年の民法改正後に締結された個人根保証契約については、極度額の記載を必ず確かめてください。

経営者保証に関するガイドラインで何ができるのか

「経営者保証に関するガイドライン」は、経営者保証に関するガイドライン研究会が平成25年12月に公表した準則です。法令ではありませんので裁判所が強制するものではありませんが、金融機関はこれを尊重して対応することとされており、実務上は保証債務の整理の出発点となっています。

このガイドラインによる整理を選ぶ利点は三点です。第一に、破産手続によらずに保証債務を整理することができるため、信用情報機関への事故情報の登録を回避することができる場合があります。第二に、後述する残存資産の範囲について、破産手続における自由財産よりも広い範囲を協議によって定める余地があります。第三に、保証人が経営から退くことを前提としない再建の形も選択肢に入ります。

他方、利用には条件があります。主たる債務者である会社について法的整理又は準則型の私的整理が申し立てられ、又はこれに準ずる手続が行われていること、保証人に免責不許可事由に相当する行為がないこと、そして対象となる債権者全員の同意が得られることです。同意が得られない債権者が一行でもあれば、この枠組みは成立しません。

手元に残すことができる財産の範囲は、どのように決まるのか

保証人が最も知りたいのは、自宅と当面の生活資金が残るかどうかという点です。この答えは、選ぶ手続によって二通りに分かれます。

破産手続を選んだ場合、破産法第2条第4項にいう破産者となり、残せる財産の範囲は法定の自由財産と、裁判所の裁量による拡張の範囲に限られます。自宅に住宅ローンや根抵当権が設定されていれば、担保権者が競売を申し立てることを止める手段は原則としてありません。

これに対し、ガイドラインによる整理では、対象債権者との協議により、一定期間の生計費に相当する額と、華美でない自宅を残存資産に含めることが検討されます。ただし、これは自動的に認められるものではなく、保証人が資産を隠していないこと、早期に事業再生に着手したことにより債権者の回収額が増加したと評価できることが、実質的な判断要素となります。着手が遅れるほど、この主張は通りにくくなります。

会社の整理の方法によって、保証人の扱いが変わります

会社について破産手続を選んだ場合、会社の債務は最終的に消滅しますが、保証債務は主たる債務の消滅によって当然に消えるわけではありません。保証人は、残額全部について請求を受ける立場に置かれます。したがって、会社の破産の申立てと保証債務の整理の申出とは、同じ時期に組み立てる必要があります。

会社について民事再生を選んだ場合、再生計画により会社の債務が減額されても、保証人の債務は減額されません。再生手続における弁済によって減った分だけ保証債務も減りますが、免除された部分は保証人に残ります。この点を理解しないまま再生を選び、後になって保証債務の全額請求を受ける事例が生じています。

会社について私的整理を選んだ場合には、債権者との合意の中に保証債務の取扱いを組み込むことができます。会社の債務の減免と保証債務の整理とを一体の合意として構成する余地があるのは、この方法の特徴です。会社の整理の方法を選ぶ段階で、保証人の代理人が同席していることが望まれます。

個人の破産を避けるための順序

保証人個人の破産を避けたい場合、着手すべき順序は明確です。第一に、会社の側で、準則型の私的整理又は法的整理のいずれかに着手します。ガイドラインの適用には主たる債務者側の手続が前提となるためです。第二に、保証人の資産目録を作成し、対象債権者に開示します。第三に、残存資産の希望と、その理由を書面で示します。第四に、対象債権者全員との協議に入ります。

収入があり、負債の額が一定の範囲にとどまる保証人であれば、個人再生を検討することもできます。民事再生法第221条第1項は、個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ再生債権の総額が5,000万円を超えないものは、小規模個人再生を行うことを求めることができると定めています。保証債務の額がこの枠内に収まるかどうかは、早い段階で計算しておくべき数値です。

保証人が先に動いてはならない場面

してはならない行動を挙げます。第一に、保証人が自己の資金で特定の金融機関にだけ返済することです。これは他の債権者との関係で偏った弁済となり、後の整理において問題とされます。第二に、自宅の名義を配偶者や子に移すことです。無償又は不相当に低い対価による移転は、破産手続に移行した場合に否認の対象となり、また破産法第252条第1項各号に掲げる免責不許可事由に該当し得ます。

第三に、会社の資産を代表者個人に移すことです。会社の車両を簿価で買い取る、会社の保険を個人契約に切り替えるといった行為は、それ自体は珍しくない取引ですが、資金繰りが逼迫した時期に行えば、必ず説明を求められます。第四に、保証人が主たる債務者に代わって弁済した場合、民法第459条第1項により委託を受けた保証人は主たる債務者に対する求償権を取得しますが、会社に資力がなければこの求償権は事実上回収不能であり、保証人の負担が減るわけではありません。

なぜ金融機関は、会社と保証人を同時に処理したがるのか

金融機関が会社の話と保証人の話を同じ場で進めようとするのには、内部の事情があります。融資先の債務者区分が引き下げられ、貸倒引当金の計上が必要となった案件は、回収の見込額を確定させて処理を完結させることが求められます。会社の分と保証人の分を別々の時期に処理すれば、案件が二度にわたって管理の対象となります。

また、保証人の資力は時間とともに変動します。役員報酬が止まり、生活費で預金が減っていけば、回収可能額は減少します。金融機関の側から見れば、保証人の資産が最も多い時点で処理を確定させることが合理的です。この構図を理解しておけば、面談の場で個人資産の一覧を即座に提出するよう求められた際に、代理人を通じて整理して提出すると答えることの意味が分かります。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士が担うのは、保証契約書の確認と責任範囲の特定、会社側の手続との整合を取った工程表の作成、保証人の資産目録及び陳述書の作成、対象債権者との協議、残存資産に関する交渉、そして協議が整わない場合の破産又は個人再生への切替えです。金融機関との面談への同席も含みます。

依頼の時期は、会社の資金繰り表において、3か月先までの資金が不足すると判明した時点が目安となります。この段階であれば、私的整理と法的整理の双方が選択肢として残っており、ガイドラインによる整理の前提も整えやすくなります。既に一括の返済を求める通知が届いている場合には、その日から数えて選択できる手段が急速に減っていきます。

いま確認していただきたいこと

次の資料を、本日中に一か所にまとめてください。金融機関ごとの保証契約書の写し、金銭消費貸借契約証書の写し、自宅の登記事項証明書、直近の預金通帳、生命保険の解約返戻金の証明書、直近3期の決算書、そして向こう6か月の資金繰り表です。

あわせて、保証の対象が特定の債務に限られるのか、根保証であるのかを、契約書の文言で確認してください。根保証であれば極度額の記載の有無を、特定の債務の保証であれば対象となる貸付けの実行日と残高を、それぞれ書き出してください。

よくあるご質問

会社を破産させれば、保証債務も消えますか

消えません。会社の破産により会社の債務は最終的に処理されますが、保証人に対する請求権は残ります。保証債務の整理は、別の手続として行う必要があります。

配偶者も保証人になっている場合は、どうなりますか

配偶者も同じく請求を受ける立場にあります。ガイドラインによる整理を選ぶ場合、対象となる保証人ごとに資産目録を作成し、それぞれについて残存資産の協議を行います。一方だけを整理して他方を残すことは、実務上は困難です。

自宅を残せる可能性はどの程度ありますか

自宅の担保余力によります。住宅ローンや根抵当権の被担保債権額が時価を上回っている場合には、担保権者の判断が決定的となります。担保余力がある場合には、その相当額を弁済することにより自宅を残す構成を協議することになります。

金融機関から個人資産の一覧を求められました。提出すべきですか

最終的には開示が必要となりますが、提出の時期と内容は工程の中で決めるべき事項です。会社の手続の方針が決まらないうちに個別に提出しますと、その後の協議の前提が固定されてしまいます。代理人を選任したうえで、まとめて提出することが適切です。

保証債務を分割で払うという提案を受けています

分割弁済の合意は、保証債務の存在と金額を承認する行為です。合意の前に、ガイドラインによる整理の可能性と、破産又は個人再生を選んだ場合の負担とを比較してください。比較を行わないまま合意しますと、後に手続を選び直すことが難しくなります。

まとめ

経営者保証の問題は、会社の再建の可否とは別の軸で進みます。会社をどうするかを決めてから保証の話を始めるのではなく、両方を同じ工程表の上に置き、同じ時期に着手することが要点です。順序を整えて臨めば、手元に残すことができる範囲は変わります。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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出典

  • 民法第446条第1項(保証人の責任等)、第452条(催告の抗弁)、第453条(検索の抗弁)、第459条第1項(委託を受けた保証人の求償権)、第465条の2第1項及び第2項(個人根保証契約の保証人の責任等)
  • 破産法第2条第4項(破産者の定義)、第252条第1項(免責許可の決定の要件等)
  • 民事再生法第221条第1項(小規模個人再生の手続開始の要件等)
  • 経営者保証に関するガイドライン(経営者保証に関するガイドライン研究会、平成25年12月公表)

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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