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本ページは、資金繰りが悪化した会社の事業再生、債務の整理及び法人破産に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
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創業から40年続く部品加工の会社で、技術と得意先は健在であるものの、過去の設備投資による借入金が年商を上回り、返済のために新たな借入れを重ねる状態が続いている。従業員は30名、うち10名は勤続20年を超えます。会社としての存続は難しくとも、この工場と、この人たちの仕事は残したい、というご相談を数多くお受けします。
この場面で問われているのは、会社という器を残すことではなく、事業という中身を残すことです。器と中身は分けることができます。事業を第三者に譲り渡し、譲渡の対価を債権者への弁済に充て、器である会社は清算するという構成が、その具体的な形です。
結論から申し上げます。事業譲渡により事業を残すことができるかどうかは、譲り受ける相手が現れる時期に左右されますので、資金が尽きる時点から逆算して、遅くとも6か月前には着手する必要があります。会社法第467条第1項第1号及び第2号は、事業の全部の譲渡及び事業の重要な一部の譲渡について株主総会の決議による承認を要すると定めており、手続にも一定の期間を要します。以下、順にご説明します。
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事業再生の場面は、手法を論ずる場面と、手続を選ぶ場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。
- 事業譲渡という手法により事業を第三者の下で残す場面……本記事
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会社を残すのか、事業を残すのか
会社を残すとは、既存の法人格を維持し、その法人が債務を負ったまま返済を続けることを意味します。事業を残すとは、事業の用に供する資産、契約関係及び従業員を他の法人へ移し、その下で操業を続けることを意味します。後者では、元の法人は債務とともに残り、最終的に清算されます。
どちらを選ぶかは、収益力と債務の額の関係によって決まります。営業利益によって現在の債務を合理的な期間内に返済できる見込みがあれば、会社を残す方向で検討します。返済に20年、30年を要する計算になるのであれば、事業を切り離す方向で検討することになります。
従業員と取引先の立場から見れば、器がどちらであるかは重要ではありません。雇用が続き、取引が続くことが重要です。経営者が会社という器に執着することによって、着手が遅れ、結果として事業まで失う例が繰り返されています。
事業譲渡による再生の基本の形
基本の形は次のとおりです。譲渡会社が、事業の用に供する資産、取引契約、許認可及び従業員を、譲受会社へ移転します。譲受会社は、その対価を譲渡会社に支払います。譲渡会社は、受領した対価を債権者への弁済に充て、残余の債務については免除を受けるか、清算により処理します。
事業譲渡が用いられる理由は、承継する範囲を個別に選ぶことができる点にあります。会社分割や合併では、権利義務が包括的に移転しますので、簿外債務も承継の対象となります。事業譲渡では、譲渡の対象を契約で特定しますので、譲受会社は引き継ぐ債務を限定することができます。
もっとも、限定には例外があります。会社法第22条第1項は、事業を譲り受けた会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うと定めています。同条第2項は、事業を譲り受けた後遅滞なく譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、この責任を負わないと定めています。商号を続用する場合には、この登記が必須の実務となります。
譲渡の対価をどのように定めるか
対価の算定は、この枠組みにおいて最も争いが生じる部分です。債権者から見れば、対価が低ければ弁済に充てる原資が減ります。譲受会社から見れば、対価が高ければ投資の回収が難しくなります。
算定の考え方
実務では、譲渡する資産の時価純額に、営業権の価額を加える方法が用いられます。営業権の価額は、正常収益力を基礎として算定します。正常収益力とは、営業利益から、役員報酬の過大な部分、一時的な損益、実態に合わない減価償却の影響を調整した後の数値です。
第三者の評価を経ることの意味
算定の根拠を、公認会計士又は税理士による株式価値算定書、及び不動産鑑定士による鑑定評価書として残してください。この書面は、後に否認や詐害行為の主張を受けた際に、対価が相当であったことを示す資料となります。経営者と譲受会社の間の交渉のみで決めた価額は、根拠を欠くものとして扱われます。
親族又は役員が譲受会社となる場合
譲受会社を、経営者の親族又は現役員が設立した新会社とする例があります。この構成自体は許されますが、対価の相当性についてより厳格な検証が求められます。第三者からの入札を実施し、それを上回る価額であることを示すことが、最も確実な方法です。
債権者の理解を得るための説明の順序
債権者に対しては、事業譲渡が清算よりも回収額を増やすことを、数値によって示します。示すべきは二つの数値です。第一に、直ちに清算した場合の配当見込額です。第二に、事業譲渡を実施した場合の弁済見込額です。後者が前者を上回ることが、同意を得るための前提となります。
説明の順序は、まず担保権を有する金融機関、次に無担保の金融機関、最後にその他の債権者という順になります。担保権者の同意が得られなければ枠組みが成立しませんので、最初に協議します。この順序を誤り、取引先に先に伝えますと、情報が広がり、事業価値そのものが失われます。
提示する資料は、事業譲渡契約書の案、譲渡対象資産の一覧と評価資料、清算配当の試算、弁済計画、そして譲受会社の概要と資金の裏付けです。譲受会社が対価を支払う資力を有することの証明は、必ず求められます。
従業員と取引先の承継をどのように設計するか
事業譲渡では、雇用関係は自動的には移転しません。譲受会社との間で新たに雇用契約を締結する必要があり、これには従業員一人ひとりの同意が要ります。したがって、譲渡の実行日までに、対象となる従業員全員から同意を得る作業を完了させなければなりません。
説明の際には、賃金、勤務地、職務内容、勤続年数の通算、退職金の取扱いを明示します。勤続年数を通算しない設計とする場合には、譲渡会社において退職金を精算するか、その原資を譲渡の対価から確保する必要があります。これを曖昧にしたまま同意を求めますと、後に紛争となります。
取引契約についても、相手方の承諾が必要です。契約書に譲渡禁止条項がある場合には、個別に承諾を得なければ移転できません。主要な取引先については、譲受会社の代表者が同席して説明することが有効です。許認可については、事業譲渡によっては承継されず、譲受会社が新たに取得する必要があるものが多くあります。建設業、産業廃棄物処理業、宅地建物取引業などは、取得までの期間を工程表に織り込んでください。
法的整理の中で行う場合の許可
私的整理の枠組みでは同意が得られない場合、法的整理の中で事業譲渡を行うことになります。この場合、裁判所の許可が手続の要件となります。
民事再生法第42条第1項は、再生手続開始後において再生債務者等が再生債務者の営業又は事業の全部又は重要な一部の譲渡をするには裁判所の許可を得なければならないと定め、裁判所は当該再生債務者の事業の再生のために必要であると認める場合に限り許可をすることができるとしています。同条第2項は知れている再生債権者の意見を、同条第3項は労働組合等の意見を聴かなければならないと定めています。
株主総会の決議を得ることが困難な場合には、民事再生法第43条第1項の代替許可を用います。同項は、再生手続開始後において株式会社である再生債務者がその財産をもって債務を完済することができないときは、裁判所は再生債務者等の申立てにより、会社法第467条第1項第1号から第2号の2までに掲げる行為について株主総会の決議による承認に代わる許可を与えることができると定めています。通常の事業譲渡が会社法第309条第2項第11号により特別決議を要することと対比すると、この規定の意義が理解できます。
破産手続の中で行うこともできます。破産法第78条第2項第3号は、破産管財人が営業又は事業の譲渡をするには裁判所の許可を得なければならないと定め、同条第4項は、裁判所がこの許可をする場合には労働組合等の意見を聴かなければならないと定めています。
否認及び詐害行為の指摘を受けないために
事業譲渡は、資産が会社から流出する行為ですので、後に否認又は詐害行為取消しの主張を受けやすい取引です。
破産法第160条第1項は、破産者が破産債権者を害することを知ってした行為、及び支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為を、破産財団のために否認することができると定めています。民法第424条第1項は、債権者は債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができると定めています。
指摘を受けないための要件は四つです。第一に、対価が相当であること。第二に、受領した対価が債権者への弁済に充てられ、費消されていないこと。第三に、主要な債権者に対して事前に説明が行われていること。第四に、算定と協議の過程が書面として残されていることです。
特に避けるべきは、譲渡の対価を経営者への役員報酬や退職金として支出することです。この一点によって、それまでの手続の適正が失われます。
なぜスポンサーを探す時期が遅れるのか
着手が遅れる原因は三つあります。第一に、来期には回復するという見通しを持ち続けることです。第二に、外部に相談すれば情報が漏れるという懸念です。第三に、事業を手放すことが敗北であるという受け止めです。
しかし、譲受候補が評価するのは、資産の帳簿価額ではなく、将来の収益力です。資金が尽き、仕入が止まり、従業員が離れ始めた会社の事業には、収益力の裏付けがありません。同じ事業であっても、稼働している状態と停止した状態とでは、評価はまったく異なります。
したがって、事業を最も高く譲り渡すことができるのは、まだ操業が続いている時期です。資金繰り表において資金が尽きる時点が見えたら、その6か月前を着手の期限と定めてください。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
弁護士が担うのは、譲渡対象の範囲の設計、事業譲渡契約書の作成、対価の算定に関する専門家の起用と検証、債権者への説明の設計と実施、従業員及び取引先の承継に関する手続、法的整理を用いる場合の裁判所の許可の申立て、そして残された会社の清算です。譲受候補との交渉の窓口を代理人が務めることにより、経営者は操業の維持に専念することができます。
依頼の時期は、返済のリスケジュールを行っても資金繰りが改善しないと判明した時点です。この時点であれば、譲受候補を探す時間と、債権者と協議する時間の双方を確保できます。
いま確認していただきたいこと
事業の用に供している資産の一覧を作成してください。不動産、機械設備、車両、什器、在庫、知的財産権、そしてこれらに設定されている担保権を記載します。あわせて、事業に不可欠な契約を一覧にし、譲渡禁止条項の有無を確認してください。
従業員名簿には、氏名、職務、勤続年数、賃金、退職金規程上の支給見込額を記載します。許認可については、名称、根拠法令、有効期限、そして事業譲渡により承継されるか否かを確認してください。最後に、直ちに清算した場合の配当見込額を試算し、事業譲渡による弁済見込額と比較できる状態にしてください。
よくあるご質問
債務超過でも事業を譲り渡すことはできますか
できます。譲渡の対象は事業であり、会社そのものではありません。債務は譲渡会社に残りますので、譲受会社は債務超過の影響を受けません。譲渡の対価が債権者への弁済原資となります。
従業員全員を引き継いでもらえますか
譲受会社との交渉によります。事業譲渡では雇用関係は自動的に移転しませんので、承継の範囲は契約で定めます。承継されない従業員が生じる場合の取扱いを、譲渡の対価の中で手当てする設計が必要です。
取引先に知られずに進めることはできますか
主要な取引先の契約に譲渡禁止条項がある場合には、承諾を得る必要がありますので、実行前に知られます。もっとも、譲受候補の探索の段階では、社名を伏せた概要書によって進めることが通例です。
会社の名前を変えずに譲り渡してよいですか
商号を続用する場合には、譲受会社が譲渡会社の債務について責任を負いますので、免責の登記を行う必要があります。登記を行わない設計とするのであれば、承継する債務の範囲を契約で明確にしたうえで、その負担を対価に反映させます。
譲渡の対価を経営者の退職金に充ててよいですか
避けてください。対価は債権者への弁済原資であり、これを経営者に支出しますと、否認又は詐害行為取消しの対象となる可能性が高くなります。経営者の生活の手当ては、保証債務の整理の中で協議すべき事項です。
まとめ
事業譲渡は、会社を失う手続ではなく、事業と雇用を次の担い手に渡す手続です。対価の相当性を第三者の評価によって裏付け、債権者への説明を順序どおりに行い、操業が続いているうちに着手すること。この三点が揃えば、事業は残ります。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
事業再生型のM&A及び事業譲渡に関するご相談
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受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 会社法第22条第1項(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)、第309条第2項第11号(株主総会の決議)、第467条第1項第1号及び第2号(事業譲渡等の承認等)
- 民事再生法第42条第1項(営業等の譲渡)、第43条第1項(事業等の譲渡に関する株主総会の決議による承認に代わる許可)
- 破産法第78条第2項第3号(破産管財人の権限)、第160条第1項(破産債権者を害する行為の否認)
- 民法第424条第1項(詐害行為取消請求)
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