別除権 破産・民事再生における担保権の行使方法と不足額責任主義

別除権とは

別除権とは、破産手続又は民事再生手続において、手続の開始時に債務者の財産の上に存在する特別の先取特権、質権、抵当権及び商法又は会社法の規定による留置権について、これらの担保権を有する債権者が、当該手続によらないで、その目的である財産から個別に弁済を受けることができる権利をいいます。

破産手続における別除権の定義は破産法第2条第9項に、民事再生手続における別除権の定義は民事再生法第53条第1項に、それぞれ規定されております。

破産手続も民事再生手続も、本来は全ての債権者を手続の中に取り込み、公平な弁済を実現するための制度です。しかしながら、担保権は、債務者の資力が悪化した場合に備えてあらかじめ設定されたものですから、その担保としての価値を手続の開始によって失わせることは相当ではありません。そこで法は、担保権者に対し、手続の外で個別に権利を実行することを認めております。これが別除権です。

別除権は、破産手続によらないで行使することができ(破産法第65条第1項)、再生手続によらないで行使することができます(民事再生法第53条第2項)。「手続によらないで」とは、破産管財人による換価及び配当の手続、又は再生計画による権利変更の対象とならないという意味です。

別除権の基礎となる担保権

別除権として扱われる担保権は、法律が限定的に列挙いたしております。契約により設定された担保であれば全て別除権となるわけではありません。

特別の先取特権

特別の先取特権とは、法律の規定により特定の財産の上に当然に生ずる優先弁済権です。動産売買の先取特権(民法第321条)、不動産賃貸の先取特権(民法第312条)、不動産保存の先取特権(民法第326条)等がこれに当たります。

一般の先取特権(民法第306条)は、債務者の総財産を目的とするものであり、別除権ではありません。破産手続においては優先的破産債権(破産法第98条第1項)として、民事再生手続においては一般優先債権(民事再生法第122条第1項)として取り扱われます。

質権

動産質、不動産質及び権利質のいずれも別除権の基礎となります。実務上は、預金債権、売掛金債権、株式及び保険金請求権に対する質権が問題となることが多くあります。

抵当権

普通抵当権のほか、根抵当権も別除権の基礎となります。根抵当権につきましては、破産手続開始又は再生手続開始により元本が確定いたします(民法第398条の20第1項第4号)。

商事留置権

商法第521条の商人間の留置権は、手続によって取扱いが異なりますので、特に注意を要します。

破産手続におきましては、商法又は会社法の規定による留置権は、破産財団に対しては特別の先取特権とみなされ(破産法第66条第1項)、別除権として扱われます。ただし、この特別の先取特権は、民法その他の法律の規定による他の特別の先取特権に後れるものとされております(同条第2項)。他方、民法の規定による留置権(民事留置権)は、破産財団に対してはその効力を失います(同条第3項)。

民事再生手続におきましては、民事再生法第53条第1項が商法又は会社法の規定による留置権を明文で別除権の基礎に含めております。

この点に関し、最高裁判所は平成23年12月15日判決におきまして、取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行は、民事再生手続開始決定後に当該手形を取り立てた場合、取立金を法定の手続によらないで再生債務者の債務の弁済に充当することができる旨の合意があるときは、当該取立金を債務の弁済に充当することができると判示いたしました。銀行取引におきましては重要な判断です。

手続の種類による取扱いの相違

破産手続

別除権者は、破産手続の進行と無関係に担保権を実行することができます。破産管財人は、別除権の目的である財産につき、別除権者との協議により任意売却を行うことがあります。

民事再生手続

民事再生手続におきましても別除権の行使は妨げられません。もっとも、再生債務者の事業の継続に不可欠な財産に担保権が設定されている場合には、担保権の実行により事業の継続が不可能となりますので、後述の担保権消滅請求及び別除権協定が重要な意義を有します。

会社更生手続

会社更生手続におきましては、別除権の制度がありません。担保権は更生担保権(会社更生法第2条第10項)として更生手続の中に取り込まれ、更生計画による権利変更の対象となります。更生手続開始の決定があったときは、担保権の実行手続をすることができず、既にされているものは中止いたします(会社更生法第50条第1項)。

これは、会社更生手続が大規模な株式会社の再建を目的とし、担保権者を含む全ての利害関係人を手続に取り込むことによって抜本的な再建を図る制度であることによるものです。

特別清算手続

特別清算手続におきましては、担保権の実行は原則として制限されません。ただし、裁判所は、債権者の一般の利益に適合し、かつ、担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがないと認めるときは、担保権の実行手続の中止を命ずることができます(会社法第516条)。

別除権の行使方法

担保権の実行による方法

抵当権であれば担保不動産競売(民事執行法第180条第1号)又は担保不動産収益執行(同条第2号)、債権質であれば直接取立て(民法第366条第1項)等、それぞれの担保権について法律が定める方法により実行いたします。

任意売却による方法

実務上は、競売によるよりも任意売却による方が高額での換価が期待できますため、破産管財人又は再生債務者と別除権者との間で協議を行い、任意売却によることが多くあります。この場合、破産管財人が財団組入金を確保することを条件として担保権の抹消に同意する等の調整が行われます。

不足額責任主義

別除権者は、担保権を実行してもなお弁済を受けられない部分が生じた場合、その不足額についてのみ、破産債権者又は再生債権者として権利を行使することができます。これを不足額責任主義と申します。

根拠条文は、破産手続につき破産法第108条第1項、民事再生手続につき民事再生法第88条です。

したがいまして、別除権者は、担保権の実行を完了させるか、又は担保権を放棄する等により不足額を確定させなければ、配当又は弁済を受けることができません。破産手続におきましては、最後配当の除斥期間内に不足額を証明しなければ配当から除斥されます(破産法第198条第3項)。手続の進行に応じた期限の管理が極めて重要です。

担保権を消滅させる制度

破産法における担保権消滅の許可

破産管財人は、破産財団に属する財産につき担保権が存する場合において、当該財産を任意に売却して破産債権者の一般の利益に適合するときは、裁判所に対し、担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができます(破産法第186条第1項)。担保権者は、これに対し、買受けの申出(同法第188条)又は担保権の実行の申立て(同法第187条)をすることにより対抗することができます。

民事再生法における担保権消滅請求

再生債務者等は、再生債務者の財産につき担保権が存する場合において、当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできないものであるときは、裁判所に対し、当該財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付して当該担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができます(民事再生法第148条第1項)。

担保権者は、価額に不服がある場合には価額決定の請求をすることができます(同法第149条第1項)。事業の継続に不可欠な工場、店舗又は機械設備を確保するための制度です。

別除権協定

民事再生手続の実務におきまして最も重要なのが別除権協定です。

別除権協定とは、再生債務者と別除権者との間で、担保権を実行しないことの約束と引換えに、目的財産の価値に相当する金額を分割して弁済することを合意するものです。担保権消滅請求は一括での金銭納付を要しますところ、資金力の乏しい中小企業にとっては現実的でないことが多くありますため、分割弁済による別除権協定が用いられます。

別除権協定の締結は、再生計画案の可決及び認可の前提となることが多くありますので、再生手続の申立て前の段階から担保権者との交渉方針を定めておくことが肝要です。

実務上の留意点

担保権者の側におかれましては、第一に、自らの有する権利が別除権の基礎となる担保権に該当するかを確認すること、第二に、不足額の確定と届出の期限を管理すること、第三に、任意売却と競売のいずれが回収額において有利かを検討することが重要です。

債務者の側におかれましては、第一に、事業の継続に不可欠な財産を特定すること、第二に、担保権消滅請求と別除権協定のいずれによるかを早期に判断すること、第三に、担保権者との交渉を申立て前に開始することが重要です。担保権者との合意が得られないまま再生手続を申し立てますと、事業の中核となる資産を失い、再生が頓挫するおそれがあります。

手続の種類による取扱いの一覧

項目 破産手続 民事再生手続 会社更生手続 特別清算手続
担保権の呼称 別除権 別除権 更生担保権 (特段の呼称なし)
手続外での実行 可能 可能 不可 原則として可能
実行の中止命令 あり(破産法第24条) あり(民事再生法第31条) 実行自体が禁止 あり(会社法第516条)
担保権を消滅させる制度 担保権消滅の許可(破産法第186条) 担保権消滅請求(民事再生法第148条) 更生計画による権利変更 協定による
商事留置権の扱い 特別の先取特権とみなす(破産法第66条第1項) 別除権に含める(民事再生法第53条第1項) 更生担保権 留置権として存続
民事留置権の扱い 効力を失う(破産法第66条第3項) 別除権に含まれない 更生担保権に含まれない 留置権として存続
不足額責任主義 あり(破産法第108条第1項) あり(民事再生法第88条) 該当なし 該当なし

別除権の目的財産の評価

別除権をめぐる交渉におきましては、目的財産をいくらと評価するかが最大の争点となります。評価額が高ければ担保権者の取り分が増え、再生債務者又は破産財団の取り分が減少するという対立構造にあるためです。

評価の三つの考え方

第一に、清算価値による評価です。競売により売却した場合に現実に得られる金額を基礎とするものであり、担保権者にとっては最も低い評価となることが通例です。

第二に、継続企業価値による評価です。事業の用に供されている財産につき、事業が継続することを前提とした収益還元により評価するものです。工場、店舗又は事業用機械につきましては、単体で売却するよりも事業とともに存続させる方が価値が高いことが多くあります。

第三に、時価による評価です。不動産鑑定士による鑑定評価又は固定資産税評価額等を基礎とするものです。

民事再生手続における担保権消滅請求におきましては、財産の価額は処分価額を基準とするものと解されております。別除権協定におきましては、当事者間の合意により定めますので、清算価値を下限とし、継続企業価値を上限とする範囲内で交渉が行われることが一般的です。

評価をめぐる交渉の実際

担保権者が金融機関である場合には、行内の査定基準及び引当の状況が交渉の背後にあります。既に相当額の貸倒引当金を計上している場合には、一定の減額に応じやすい傾向があります。他方、担保権者が信用保証協会又は債権回収会社である場合には、回収額の合理性を対外的に説明する必要から、鑑定評価等の客観的な資料を求められることが多くあります。

いずれの場合におきましても、債務者の側が先に評価の根拠となる資料を整えて提示することが交渉を有利に進める要諦です。

別除権協定の主要な条項

別除権協定に定めるべき事項は、おおむね次のとおりです。

第一に、担保権を実行しない旨の合意です。協定に定める弁済が履行されている限り担保権を実行しない旨を明記いたします。

第二に、弁済の総額及び分割の方法です。目的財産の評価額を基礎として総額を定め、弁済の回数、各回の金額及び弁済期を定めます。

第三に、期限の利益の喪失事由です。弁済の遅滞、他の債権者による担保権の実行、再生手続の廃止等を定めるのが通例です。

第四に、目的財産の処分の制限及び保険の付保です。担保価値の維持を図る条項です。

第五に、弁済完了時の担保権の抹消です。全額の弁済が完了した場合に担保権設定登記を抹消する旨を定めます。

第六に、再生計画との関係です。別除権協定に基づく弁済は再生計画の外で行われるものですが、再生計画における弁済原資との関係を整理しておく必要があります。

別除権をめぐる典型的な紛争の類型

動産売買の先取特権の追及

商品を納入した売主が、買主の破産又は民事再生に際し、動産売買の先取特権(民法第321条)を主張する場面です。目的物が転売されている場合には、転売代金債権に対する物上代位(民法第304条第1項)が問題となります。物上代位は、払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければなりませんので、速度が結果を分けます

銀行の商事留置権と預金の相殺

金融機関が、手形の取立委任を受けている場合又は債務者の預金を有している場合に、商事留置権及び相殺権をどのように行使するかという問題です。前掲の最高裁判所平成23年12月15日判決が実務の基礎となっております。

根抵当権の元本確定と極度額

根抵当権につきましては、破産手続開始又は再生手続開始により元本が確定いたします(民法第398条の20第1項第4号)。確定後の被担保債権の額が極度額を下回る場合には、担保余力の帰属が争点となります。

担保権消滅請求における価額の争い

再生債務者が提示した価額に担保権者が不服を有する場合、価額決定の請求(民事再生法第149条第1項)により裁判所が評価人を選任して価額を定めます。評価人の評価を左右するのは、当事者が提出する資料の質です。

別除権に関する時系列の管理

別除権をめぐる実務は、期限の管理に尽きると申しても過言ではありません。主要な期限は次のとおりです。

担保権者の側の期限

第一に、債権届出期間です。破産手続におきましては、別除権者も破産債権の届出をする必要があり、その際に別除権の目的である財産及び予定不足額を届け出なければなりません(破産法第111条第2項)。届出を怠りますと、権利行使に支障を生じます。

第二に、最後配当の除斥期間です。破産手続におきましては、別除権者は最後配当の除斥期間内に、担保権の行使によって弁済を受けることができなかった債権の額を証明しなければ、配当から除斥されます(破産法第198条第3項)。

第三に、担保権消滅請求に対する価額決定請求の期間です。民事再生手続におきまして、担保権消滅の許可の申立書の送達を受けた日から1か月以内に価額決定の請求をしなければなりません(民事再生法第149条第1項)。

債務者の側の期限

第一に、担保権実行の中止命令の申立てです。民事再生手続におきましては、再生手続開始の申立てがあった場合、裁判所は担保権の実行手続の中止を命ずることができます(民事再生法第31条第1項)。競売の開札期日が迫っている場合には、申立てと同時に中止命令を求める必要があります。

第二に、別除権協定の締結時期です。再生計画案の提出までに担保権者との合意の目処が立っていることが望ましく、遅くとも債権者集会までには締結を了することが求められます。

よくあるご質問

質問1 民法上の留置権は別除権となりますか。
破産手続におきましては、民法の規定による留置権は破産財団に対してその効力を失いますので(破産法第66条第3項)、別除権とはなりません。民事再生手続におきましては、民事再生法第53条第1項が商法又は会社法の規定による留置権のみを掲げておりますので、民事留置権は別除権に含まれないものと解されております。

質問2 所有権留保は別除権となりますか。
判例及び実務は、所有権留保を担保権の一種として捉え、別除権に準じて取り扱っております。ただし、対抗要件の具備の有無により結論が異なり得ますので、個別の検討を要します。

質問3 譲渡担保は別除権となりますか。
譲渡担保につきましても、実質的に担保権であるとして、別除権に準じて取り扱うのが実務です。

質問4 会社更生手続で担保権を実行することはできますか。
できません。会社更生手続におきましては担保権は更生担保権として手続に取り込まれ、更生手続開始の決定により実行手続は中止いたします(会社更生法第50条第1項)。

質問5 担保権消滅請求をされた場合、担保権者はどのように対応すべきですか。
提示された財産の価額が適正であるかを検討し、不服がある場合には価額決定の請求(民事再生法第149条第1項)を行うことになります。請求には期間の制限がありますので、通知を受領された時点で速やかに弁護士にご相談ください。

まとめ

別除権は、担保権者に対し、倒産手続の外で個別に弁済を受けることを認める制度です。担保権者にとりましては強力な権利ですが、不足額責任主義及び除斥期間の制約がありますので、期限の管理を誤りますと回収の機会を失います。

他方、債務者にとりましては、事業の継続に不可欠な財産に担保権が設定されている場合、担保権の実行を阻止できるか否かが再生の成否を決定いたします。担保権消滅請求と別除権協定のいずれによるかの判断、及び担保権者との交渉の巧拙が、結果を大きく左右いたします。

会社更生手続におきましては別除権の制度がなく、担保権も更生手続に取り込まれますので、担保権者の負担が大きい反面、抜本的な再建が可能です。手続の選択そのものが、担保権の取扱いを決定づけるということです。

別除権に関する問題は、担保権の種類、目的財産の性質、手続の種類及び当事者の交渉力が複雑に絡み合いますので、早期に弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

本記事の根拠条文及び裁判例

破産法第2条第9項、第65条、第66条、第98条第1項、第108条第1項、第186条から第191条まで、第198条第3項。民事再生法第53条、第88条、第122条第1項、第148条、第149条。会社更生法第2条第10項、第50条第1項。会社法第516条。商法第521条。民法第306条、第312条、第321条、第326条、第366条第1項、第398条の20第1項第4号。民事執行法第180条。最高裁判所平成23年12月15日判決。

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