この記事の位置付け
本ページは、民事再生及び会社更生による再建に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
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濫用的会社分割とは
濫用的会社分割とは、経営が悪化した会社が、会社法上債権者保護手続を要しない方法によって会社分割を行い、新設会社又は承継会社へ重要な事業及び資産を移転させる一方、特定の債務のみを分割会社に残すことにより、当該特定の債権者の債権回収の可能性を著しく低下させる会社分割をいいます。
会社分割の手続を濫用して債権者を不平等に取り扱う結果を生じさせるものですため、「濫用的」会社分割と呼ばれております。詐害行為取消権の対象となり、また破産手続における否認の対象ともなり得ます。
なお、残存債権者を害する会社分割の総論及び対抗手段につきましては、詐害的会社分割の解説をご覧ください。本記事は、濫用の態様の識別に重点を置いております。
濫用と評価される会社分割の識別
第一 承継させる債務の選別
事業の継続に不可欠な仕入先、リース会社及び従業員に対する債務のみを承継させ、金融機関からの借入金、租税債務及び紛争中の債権者に対する債務を分割会社に残す類型です。債務の選別に事業上の合理性が説明できるかが分岐点となります。
第二 対価の不相当
新設分割におきましては、分割会社が新設会社の株式の全部を取得いたしますので、形式上は等価交換です。しかしながら、承継させた事業の価値に比して発行される株式の価値が過少に評価されている場合、又は分割後に当該株式が低額で第三者へ譲渡される場合には、実質的な対価が不相当であると評価されます。
第三 人的な同一性
新設会社の代表者、役員及び主要株主が分割会社と同一であり、事務所、屋号、電話番号及び取引先も同一である場合には、実質的に法人格の付替えにすぎないと評価されやすくあります。
第四 時期の近接
債権者からの督促、訴訟の提起又は強制執行の申立てと近接した時期に会社分割が行われている場合には、追及の回避を目的とするものと推認されます。
第五 分割会社の放置
分割後、分割会社について清算手続も破産手続も行われず、放置されている場合には、債権者に対する弁済の意思がないことが明らかとなります。
債権者保護手続が及ばない構造
会社分割におきまして債権者異議手続の対象となるのは、分割後に分割会社に対して債務の履行を請求することができない債権者です(会社法第789条第1項第2号、第810条第1項第2号)。
分割会社に残される債権者は、分割後も分割会社に対して請求することができますので、条文の文言上は異議を述べる地位を有しません。この形式論理が濫用の余地を生んでおります。もっとも、分割会社に弁済の資力が失われている以上、その請求権は名目的なものにすぎません。
平成26年の会社法改正により残存債権者の直接請求権が新設されましたのは、この形式と実質の乖離を是正するためです。
債権者としての初動
第一に、履歴事項全部証明書の取得です。会社分割は登記されますので、分割の日付、新設会社の商号、本店所在地及び役員構成を確認いたします。
第二に、事前開示書面の閲覧請求です。分割会社は、分割契約又は分割計画の内容、承継する資産及び債務の明細、対価の相当性に関する事項等を記載した書面を本店に備え置く義務を負っております(会社法第794条、第803条)。債権者は閲覧及び謄本の交付を請求することができます。
第三に、新設会社の登記及び実態の調査です。新設会社の株主が誰であるか、株式が第三者へ譲渡されていないかを確認いたします。
第四に、保全処分の検討です。新設会社の資産が更に散逸するおそれがある場合には、仮差押え又は詐害行為取消権を被保全権利とする処分禁止の仮処分を検討いたします。
正当な第二会社方式との峻別
会社分割により優良事業を切り離し、不採算事業と過剰債務を旧会社に残して清算する手法は、第二会社方式として広く用いられている正当な事業再生の手法です。中小企業活性化協議会が関与する再生案件におきましても採用されております。
濫用的会社分割との相違は、次の3点に集約されます。
第一に、対価の相当性です。第三者による事業価値の評価を経て、相当な対価が支払われているかどうか。
第二に、債権者に対する情報開示と同意です。主要債権者に対して分割の内容と弁済計画を説明し、同意を得ているかどうか。
第三に、旧会社の清算による弁済です。対価をもって債権者へ按分弁済を行い、特別清算又は破産により旧会社を適法に終了させているかどうか。
これらを欠く会社分割は、いかに形式が整っておりましても濫用と評価されます。
よくあるご質問
質問1 濫用的会社分割と詐害的会社分割は違うものですか。
法令上の定義はいずれもありません。実務上は、残存債権者を害する会社分割を広く詐害的会社分割と呼び、そのうち会社分割制度の趣旨を逸脱した態様のものを濫用的会社分割と呼ぶことが多くあります。採り得る法的手段は共通です。
質問2 分割から何年も経っている場合でも争えますか。
会社法上の直接請求権は詐害的会社分割を知った時から2年、効力発生日から20年で消滅いたします。詐害行為取消権は取消しの原因を知った時から2年、行為の時から10年です(民法第426条)。期間の起算点は「知った時」ですので、分割から年数が経過していても、知った時期によっては行使可能です。
質問3 新設会社が更に別の会社へ事業を移した場合はどうなりますか。
転得者に対する詐害行為取消請求(民法第424条の5)が問題となります。転得者が悪意である場合には追及が可能です。
まとめ
濫用的会社分割は、会社分割における債権者保護手続の限界を突いた行為です。もっとも、平成26年の会社法改正により残存債権者の直接請求権が整備され、詐害行為取消権及び否認権と併せて複数の対抗手段が用意されております。
重要なのは、分割の事実を早期に把握し、期間内に権利を行使することです。取引先の登記の変動に注意を払い、異変を察知された場合には速やかに弁護士にご相談ください。
本記事の根拠条文
会社法第759条第4項から第7項まで、第764条第4項から第7項まで、第789条第1項第2号、第794条、第803条、第810条第1項第2号。民法第424条、第424条の5、第426条。破産法第160条。
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