詐害的会社分割 残存債権者が採り得る5つの法的手段

詐害的会社分割とは

詐害的会社分割とは、経営が悪化した会社が会社分割を利用して、優良な事業及び資産のみを新設会社又は承継会社へ移転させ、負債を分割会社に残すことにより、分割会社に残された債権者(残存債権者)の債権回収を著しく困難にする行為をいいます。

会社分割は、本来、事業の再編を機動的に行うための制度です。しかしながら、会社分割におきましては、債権者保護手続の対象となる債権者が限定されておりますため、これを利用して特定の債権者のみを害する事例が生じてまいりました。

なぜ詐害的会社分割が生じるのか

会社分割におきましては、分割後も分割会社に対して債務の履行を請求することができる債権者は、原則として債権者異議手続の対象となりません(会社法第789条第1項第2号、第810条第1項第2号)。

すなわち、分割会社に残される債権者は、形式上は分割会社に対する請求権を失っておりませんので、異議を述べる機会が与えられないのです。ところが、分割会社には収益を生む事業も換価価値のある資産も残っておりませんので、請求権は事実上無価値となります。

この構造こそが、詐害的会社分割を可能にする原因です。

残存債権者が採り得る手段

第一 会社法上の直接請求権

平成26年の会社法改正により、残存債権者を保護する規定が新設されました。

分割会社が残存債権者を害することを知って会社分割をした場合、残存債権者は、承継会社に対し、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができます(吸収分割につき会社法第759条第4項、新設分割につき同法第764条第4項)。

この請求権は、残存債権者が分割の効力発生日において害されることを知らなかったときは行使できず、また、残存債権者が詐害的会社分割を知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしなければ消滅いたします(同法第759条第6項、第764条第6項)。期間の制限に注意を要します。

第二 詐害行為取消権

民法第424条の詐害行為取消権により、会社分割そのものの取消しを求める方法です。裁判例は、新設分割につき詐害行為取消権の行使を認めております。

取消しの範囲は、責任財産の保全に必要な限度に限られますので、分割全体を取り消すのではなく、価額の償還を求める形となることが多くあります。

第三 破産手続における否認権

分割会社について破産手続が開始した場合、破産管財人は、会社分割を詐害行為として否認することができます(破産法第160条第1項)。無償行為又はこれと同視すべき有償行為に該当する場合には、無償否認(同条第3項)の対象ともなり得ます。

第四 法人格否認の法理

新設会社が分割会社と実質的に同一であり、法人格が濫用されていると認められる場合には、法人格否認の法理により、新設会社に対して直接請求することが考えられます。

第五 商号続用者の責任

承継会社が分割会社の商号を引き続き使用する場合には、会社法第22条第1項の類推適用により、承継会社が弁済の責任を負うと解される場合があります。

詐害性の判断要素

裁判実務におきまして詐害性を基礎づける事情としては、次のものが挙げられます。

第一に、分割の対価が不相当であること。第二に、分割会社に残された資産が債務に比して著しく僅少であること。第三に、承継会社の株主又は役員が分割会社と同一であること。第四に、分割の直前に多額の債務が発生していること。第五に、分割の目的が特定の債権者からの追及の回避にあると認められること。第六に、事業の実態が完全に承継会社へ移転していることです。

労働者の保護

会社分割に伴う労働契約の承継につきましては、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律が、承継される事業に主として従事する労働者の保護を定めております。詐害的会社分割におきましては、労働者が承継されずに分割会社に残されることにより、事実上の解雇と同様の結果を生ずることがあります。

債権者としての実務対応

第一に、登記の監視です。会社分割は登記により公示されますので、取引先の履歴事項全部証明書を定期的に確認することで早期に把握できます。

第二に、官報公告の確認です。債権者異議手続の公告が行われる場合があります。

第三に、期間の管理です。会社法上の直接請求権は2年で消滅いたします。

第四に、証拠の保全です。分割前後の貸借対照表、分割契約書及び分割計画書は、詐害性の立証に不可欠です。会社法第794条及び第803条の事前開示書面の閲覧を請求することが考えられます。

典型的な手口の構造

詐害的会社分割は、おおむね次の順序で行われます。

第一段階 資金繰りが悪化し、金融機関への返済又は取引先への支払が困難となります。

第二段階 新設分割により新会社を設立し、営業権、得意先、在庫、機械設備及び従業員を新会社へ移転いたします。承継させる債務は、事業の継続に不可欠な仕入先に対する債務又はリース債務等に限定いたします。

第三段階 金融機関からの借入金、租税債務及び特定の取引先に対する債務は分割会社に残します。分割会社は、新会社の株式のみを保有する状態となります。

第四段階 分割会社が保有する新会社の株式を、経営者又は関係者へ低額で譲渡いたします。これにより分割会社は無資産となります。

第五段階 分割会社を放置し、又は破産させます。

この一連の過程におきまして、第四段階の株式譲渡が加わることで、残存債権者の回収可能性が完全に失われます。会社分割それ自体よりも、分割後の株式譲渡に着目することが実務上の要諦です。

会社分割と事業譲渡の相違

項目 会社分割 事業譲渡
債務の移転 個別の同意を要しない(包括承継) 債権者の個別の同意を要する
債権者異議手続 限定的(会社法第789条第1項第2号) 制度なし
許認可の承継 承継されるものがある 原則として承継されない
労働契約 労働契約承継法の適用 個別の同意を要する
残存債権者の直接請求 会社法第759条第4項・第764条第4項 会社法第23条の2

債務の移転に個別の同意を要しない点が、会社分割が濫用されやすい最大の理由です。なお、事業譲渡につきましても、平成26年改正により残存債権者の直接請求権が新設されております(会社法第23条の2)。

承継会社の側の留意点

事業を承継する側にとりましても、詐害的会社分割と評価されることは重大な危険です。承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求され、又は分割そのものを取り消される可能性があるためです。

したがいまして、事業の承継に際しましては、第一に、分割の対価が財産の価額に相当することを客観的な資料により裏付けること、第二に、分割会社に相応の資産を残すこと、第三に、主要な債権者に対して事前に説明を行い、可能であれば同意を得ること、第四に、分割の目的が事業の継続及び雇用の維持にあることを議事録等に記録することが求められます。

これらの手当てを講じた会社分割は、第二会社方式と呼ばれる正当な事業再生の手法であり、詐害的会社分割とは峻別されます。両者を分けるのは、対価の相当性と債権者に対する情報開示の有無です。

よくあるご質問

質問1 会社分割の登記を見つけました。どの時点までに手を打つ必要がありますか。
会社法上の直接請求権は、詐害的会社分割を知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしなければ消滅いたします(会社法第759条第6項、第764条第6項)。また効力発生日から20年を経過したときも消滅いたします。詐害行為取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から2年、行為の時から10年です(民法第426条)。

質問2 承継会社に請求できる金額はいくらまでですか。
承継した財産の価額が限度です。財産の価額の立証が争点となりますので、分割契約書及び承継財産の明細を入手することが不可欠です。

質問3 分割会社が既に破産している場合はどうなりますか。
残存債権者による直接請求権の行使は、分割会社について破産手続が開始したときは、破産管財人が行うこととなります(会社法第759条第7項、第764条第7項)。個別の債権者は行使できなくなりますので、破産手続開始前に着手する必要があります。

質問4 第二会社方式と詐害的会社分割はどう違うのですか。
形式的な仕組みは同一です。相違は、対価の相当性、債権者に対する説明の有無、及び分割会社に残された財産による弁済の実行にあります。主要債権者の同意を得たうえで、分割会社の清算により按分弁済を行う場合には、正当な事業再生と評価されます。

質問5 租税債務が残された場合はどうなりますか。
国税徴収法第38条の第二次納税義務の問題となり得ます。事業を譲り受けた特殊関係者は、譲り受けた財産の価額を限度として第二次納税義務を負う場合があります。

まとめ

詐害的会社分割に対しましては、会社法上の直接請求権、詐害行為取消権、否認権、法人格否認の法理及び商号続用者の責任と、複数の手段が用意されております。もっとも、いずれも期間の制限又は立証の負担がありますので、会社分割を察知した段階で速やかに弁護士にご相談いただくことが肝要です。

会社分割の濫用の具体的な手口につきましては、濫用的会社分割の解説を併せてご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法第22条第1項、第759条第4項から第6項まで、第764条第4項から第6項まで、第789条第1項第2号、第794条、第803条、第810条第1項第2号。民法第424条。破産法第160条。会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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