債務を整理する債務整理の一つとして、特定調停という方法があります。
特定調停は裁判所で行われる民事調停の中の一つでもあり、金銭債務の調整のために申し立てを行うことです。
この特定調停は個人でも法人でも行うことができますが、法人については日本弁護士連合会(日弁連)が「特定調停スキーム」という事業の再生が必要となる場合に利用できる選択肢を策定しています。
特定調停スキームとは、日弁連が策定した3種類の手引を基に特定調停の手続きを進めていくことです。
今回は法人の債務を特定調停により整理する方法について、特定調停スキームの3つの手引きと共に詳しく解説していきます。
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特定調停とは?
特定調停とは債務整理の内の一つで、借金の返済が難しくなった債務者(特定債務者)の経済的再生を図るため金銭債務の問題の調整を行う手続きのことをいいます。
特定調停を利用するためには、金銭債務を負っていることと支払不能に陥る恐れがあることの両方を満たした特定債務者であうことが必要です。
また、その手続きは、特定債務者であれば個人でも法人でも利用することができます。
特定調停は基本的に債務者が裁判所に申し立てを行い、裁判所の調停委員の主導で債務者と交渉が行われます。
そして、債権者の同意が得られれば、裁判所の調停委員の策定した返済計画に基づき返済方法の変更が行われるものです。
特定調停のメリットには債権者中でも一部の債務者を選択することができることや、申し立てをしたら債権者からの取り立てを止めることができるなどが挙げられます。
また、債務者みずからが手続きをすることで、費用が安くすむこともメリットの一つです。
一方、特定調停のデメリットは債権者が同意をしなければ成立しないことや、過払い金があった場合の請求は特定調停と別に行わなければならないことが挙げられます。
特定調停スキームについて
2009年12月4日に施行された中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(中小企業金融円滑化法)が、2013年3月末に期限を迎えて終了しました。
この法律の期限により、返済困窮者が希望することにより中小企業や住宅ローンの金銭債務の支払いが一定期間猶予されることも終了しました。
特定調停スキームとは、中小企業金融円滑化法の代わりの対応策の一つとして中小企業の資金繰りをサポートするために日本弁護士連合会(日弁連)が最高裁判所や経済産業省中小企業庁と協議をして策定した制度です。
特定調停スキーム利用のための3つの手引
2013年12月に日弁連は中小企業への再生スキームとして、手引1(一体再生型)「事業者の事業再生を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」(旧名称「金融円滑化法終了への対応策としての特定調停スキーム利用の手引」)を策定しました。
また、2013年12月に日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が経営者保証を提供せず融資を受ける際や保証債務の整理の際のルールとして、「経営者保証に関するガイドライン」を策定しました。
このことを受けて、日弁連は2014年12月に保証債務のみ整理するために特定調停手続を利用するスキームを策定しました。
この特定調停スキームの手引が、手引2(単独型)「経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の手法としての特定調停スキーム利用の手引」です。
さらに、2017年1月には中小企業などの廃業を支援するスキームとして、手引3(廃業支援型)「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」を策定しました。
特定調停スキームの3つの手引は、これらの3つの場面で想定されている特定調停の手法について記載されているものです。
特定調停スキーム(一体再生型)について
ここでは特定調停の手引の内、手引1(一体再生型)「事業者の事業再生を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」にまとめられている特定調停スキーム(一体再生型)について解説していきます。
手引1(一体再生型)は、以下の場面で利用されます。
- 事業再生(事業継続)する場合で、一体型(主たる債務者も保証人も特定調停を利用する場合)
- 事業再生(事業継続)する場合で、事業者単独型(主たる債務者は特定調停を利用し,保証人は破産などで特定調停を利用しない場合)
特定調停スキーム(一体再生型)とは、民事再生などの法的再生手続を利用することで事業価値が下がることを避けるために、弁護士などのサポートにより再生計画案を策定して特定調停を行うものです。
特定調停スキーム(一体再生型)はあくまでも特定調停のため民事再生など法的再生手続きではなく、私的再生であるため債権者全員との合意が必要になります。
法的再生のように、裁判所の一方的な強制力によって手続きが進行していくわけではありません。
そして、私的再生といっても債権者と債務者の代理人が直接話して解決するのではなく、裁判所の調停委員会が仲介することで信用力が上がり債権者が合意しやすくなるのです。
特定調停スキーム(一体再生型)の特徴
中小企業にとって有効な特定調停スキーム(一体再生型)による債務整理ですが、対象となる企業の事業規模が決まっているためすべての企業で利用できるわけではありません。
特定調停スキーム(一体再生型)が利用できる事業規模は、概ね年商20億円以下で負債総額10億円以下の企業になります。
また、個人が特定調停を行うためにはほとんどの場合自分で裁判所に申し立てをしますが、特定調停スキーム(一体再生型)は弁護士が代理人になるのが一般的です。
そして、特定調停スキーム(一体再生型)での代理人になれる弁護士は、国が支援認定機関として認定した弁護士に限られています。
他にも特定調停の申し立ての前に債権者と同意が必要なところなどが、個人の特定調停とは異なるところになります。
特定調停スキーム(一体再生型)により代理人になった弁護士は、債務者の財務状況や事業内容の調査やヒアリングなどを公認会計士や税理士などと連携しながら行います。
債務者と代理人である弁護士は協力をして経営改善計画案を作成し、事前に債権者である金融機関などと交渉して合意が得られるように計画案を変更していきます。
経営改善計画の策定にかかる必要な費用は、費用総額の3分の2まで上限200万円まで国から補助を受けることができます。
計画案が合意できたら債務者は特定調停の合意案も作成し、債権者である金融機関などから合意を得るように交渉していきます。
特定調停での合意がスムーズに成立するための準備をすることで、調停の期間を短期間で終了させることができるからです。
特定調停の申し立ては原則債権者である金融機関などの所在地を管轄する簡易裁判所に対して行い、合意が成立した場合は調停調書が作成されます。
特定調停スキーム(一体再生型)のメリット
特定調停スキーム(一体再生型)を行うことによるメリットは以下になります。
債権者の合意が得られやすいこと
弁護士などが協力することにより経営計画改善案を策定することや、裁判所が仲介することにより信頼性が高いことが挙げられます。
そのため、他の債務整理と比較して債権者との合意が得られやすくなっています。
特定調停手続きにかかる期間が短いこと
特定調停の申し立ての前に債権者である金融機関などと交渉して事前合意を得ているため、基本的には手続きにかかる期間が短く済みます。
会社の信用が守れること
企業が再生手続きを行う場合、一般的には取引先などに知られることも考えられ信用を失ってしまう可能性もあります。
しかし、特定調停スキーム(一体再生型)の場合は、債権者である金融機関以外に知られる可能性は極めて低いことが特徴です。
民事調停法17条決定を利用することができること
特定調停スキーム(一体再生型)では、すべての債権者の同意が得られない場合であっても民事調停法17条決定を利用することができます。
民事調停法17条決定とは、裁判所が一定の和解や調停の案を提示することでこの和解、調停条項に法的な効力を持たせるものです。
特定調停スキーム(一体再生型)の流れ
特定調停スキーム(一体再生型)を希望する企業から弁護士への依頼
金融債務などが原因で会社の再建を希望する企業が、弁護士へ依頼を行います。
経営改善計画案の作成
依頼された弁護士は税理士や公認会計士に協力してもらい、債務者の財務や事業内容を聴取して経営改善計画案を策定します。
債権者である金融機関などの同意の見込みの取得
代理人である弁護士は作成した経営改善計画案を基に事前に債権者である各金融機関などへの提示や説明や意見交換行い、問題があれば修正していきます。
さらに、調停条項案を作成して債権者である各金融機関などに対して、特定調停の説明を行います。
これは特定調停がスムーズに行われるように、調停条項に対する同意の見込みを事前に取得しておくものです。
この場合の同意とは、必ずしも積極的な賛成でなければならないわけではありません。賛成でも反対でもない程度のスタンスであれば、同意の見込みがあると判断しても良いとされています。
なぜならば、特定調停で同意がされず民事調停法17条決定がされたとしても、債権者である金融機関などが異議の申し立てをする可能性は低いと考えられるからです。
調停の申立て
特定調停スキーム(一体再生型)は、債権者である金融機関などの所在地を管轄する簡易裁判所に特定調停の申し立てを行います。
特定調停スキーム(一体再生型)の場合は事前に各債権者との合意が取れていることが前提のため、債権者が複数であったとしても1件の申し立てをすることでことが足ります。
第1回調停期日
裁判所が決定した調停委員が、債権者である各金融機関などの意向を確認します。うまくいった場合は、第1回調停期日で特定調停が成立したり17条決定がされたりします。
第2回調停期日
第1回調停期日で解決できなかった場合は、第2回調停期日が開催されます。
第2回調停期日が開催される前に調整が必要な場合は、代理人である弁護士と債権者である各金融機関などで協議を行います。
特定調停スキーム(一体再生型)の場合は、第2回調停期日までに特定調停を成立させることが原則です。
特定調停スキーム(単独型)について
ここでは特定調停の手引の内、手引2(単独型)「経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の手法としての特定調停スキーム利用の手引」にまとめられている特定調停スキーム(単独型)について解説していきます。
手引2(単独型)は、以下の場面で利用されます。
- 事業再生(事業継続)する場合で、保証人単独型(主たる債務者は再生支援協議会などで特定調停を利用せず、保証人は特定調停を利用する場合)
- 事業清算、廃業する場合で、保証人単独型(主たる債務者は破産や特別清算などで特定調停を利用せず、保証人は特定調停を利用する場合)
特定調停スキーム(単独型)とは、保証人の債務整理のみを特定調停で進めることを想定した単独型を活用するものです。
そのため、手引2(単独型)には、「経営者保証に関するガイドライン」に基づく特定調停手続による保証債務の整理の手順がまとめられています。
経営者保証ガイドラインについて
経営者保証ガイドラインは、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を事務局としてに2013年12月に公表されました。
具体的には、会社の借入金について、一定条件を満たせば経営者保証を提供することなく資金調達ができるようになります。
この場合、資金調達時だけでなく、既借入金の経営者保証をはずすこともできます。
また、会社が倒産した場合に連帯保証人になっていた経営者は、会社の負債を背負わなければなりません。
しかし、経営者保証ガイドラインによって保証債務の整理を行った場合,一定の財産を残しながら保証債務を整理することが可能になります。
但し、経営者保証ガイドラインはあくまでも努力目標や指針であり、法令ではないので強制力がないのが特徴です。
特定調停スキーム(単独型)の特徴
特定調停スキーム(単独型)を利用するには、経営者保証ガイドラインによる保証債務整理の対象となり得る保証人であることが必要です。
対象の債権者は、主たる債務者に対して金融債権を有する金融機関及び保証人に対して保証債権を有する金融機関になります。
また、特定調停スキーム(一体再生型)と同様に、特定調停の申し立ての前に債権者と十分な事前調整を行い全ての債権者から同意が得られる見込みが必要です。
特定調停スキーム(単独型)のメリット
特定調停スキーム(単独型)を行うことによる保証人のメリットは以下になります。
- 保証債務整理が破産をしないでできること。
- 信用情報機関のブラックリストに登録されないで保証債務整理ができること。
- 財産を残す余地があること。
特定調停スキーム(単独型)の流れ
弁護士への依頼
特定調停スキーム(単独型)を希望する保証人は、保証債務整理について弁護士への相談を行います。
事前聴取や資料の提供
保証人に依頼された弁護士は、主たる債務者の状況の確認や事業再生や廃業の方針などの確認をし資料の提供を受けます。また、保証人の資産について聴取や資料の提供を依頼します。
金融機関との事前の協議の開始
弁護士は特定調停の申し立ての前に保証債務の弁済計画案を策定し,債権者である金融機関と協議をおこないます。
債権者であるすべての金融機関からの同意の見込みがなければ、特定調停を申し立てることはできません。
申立書や調停条項の作成
申立書や調停条項を作成するのに、一体整理が困難な理由や経営者保証に関するガイドラインを基に整理する理由を記載する必要があります。
特定調停の申し立て
保証人を申立人として債権者である金融機関に対して、簡易裁判所に特定調停を申し立てます。対象の債権者が複数いた場合でも、通常は1件として申し立てます。
調停期日
第1回目の期日で調停が成立もしくは民事調停法第17条決定する場合もありますが、成立しなければ第2回目の調停期日が開催されます。
特定調停スキーム(廃業支援型)について
ここでは特定調停の手引の内、手引3(廃業支援型)「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」にまとめられている特定調停スキーム(廃業支援型)について解説していきます。
手引3(廃業支援型)は、以下の場面で利用されます。
- 事業清算、廃業する場合で、一体型(主たる債務者も保証人も特定調停を利用する場合)
- 事業清算、廃業する場合で、事業者単独型(主たる債務者は特定調停を利用し、保証人は破産などで特定調停を利用しない場合)
特定調停スキーム(廃業支援型)の特徴
特定調停スキーム(廃業支援型)とは、事業の継続が困難になり金融機関に過大な債務を負っている事業者が特定調停を利用することで、円滑に事業を廃業や清算させることです。
また、事業者の主たる債務及び保証人の保証債務を一体として債務免除を含めた債務の抜本的な整理を行うことで、経営者や保証人の再起や支援などを図るものです。
特定調停スキーム(廃業支援型)のメリット
特定調停スキーム(廃業支援型)を行うことによる事業者及び保証人のメリットは以下になります。
- 取引先を巻き込まなくて済むこと。
- 手続にかかるコストが比較的安価であること。
- 保証債務の整理も一体的に行えること。
- 債権者の理解を得ることで柔軟に残存資産の範囲を決定できること。
- 信用情報機関に登録されないため保証人の経済的更生を図ることが可能なこと。
特定調停スキーム(廃業支援型)の流れ
弁護士への依頼
事業の継続が困難になった事業者は、事業の清算に関する事項について弁護士に相談を行います。
事前聴取や資料の提供
弁護士は、事業者から事業者の概要や資金繰りの状況や公租公課の滞納状況や債務の状況などを徴収します。
また、それぞれを証明する資料の提供を受けます。
金融機関との事前の協議の開始
弁護士は特定調停の前に事業者と保証人の会社を清算した場合の将来の回収見込額を算定し、事業者の主たる債務の弁済計画案や保証債務の弁済計画案を策定します。
そして、債権者である金融機関と協議をして、同意の見込みを得る必要があります。
特定調停の申し立て
事業者及び保証人を申立人として債権者である金融機関に対して、簡易裁判所に特定調停を申し立てます。
対象の債権者が複数いた場合でも、通常は1件として申し立てます。
調停期日
第1回目の期日で調停が成立もしくは民事調停法第17条決定する場合もありますが、成立しなければ第2回目の調停期日が開催されます。
このように、法人の特定調停は、日弁連が策定した特定調停スキームの3つの手引きに基づき行われます。そして、どの手引きを利用するかは、場面ごとに異なるのです。