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M&Aを利用した事業再生について!
業績の悪化した企業や倒産危機にある企業は「事業再生」が必要です。
また、その事業再生方法は様々であり、採算事業の存続・強化、不採算事業の見直しや切り離し、あるいはスポンサーからの出資や、会社分割、事業譲渡による『事業再生M&A』を利用し、再建を図るケースもあります。
M&Aには様々なメリットがあるため、効率よく事業再生を図ることが可能なのです。
たとえば、資金が潤沢な企業とM&Aが成立すれば、経営基盤が強化され、財務状況を安定させる効果に期待できます。
ここでは、そんなM&Aを活用した事業再生の基礎知識や、メリット・デメリットなどの情報を徹底解説していきます。
事業再生M&Aの特徴とは?
どんな会社でも、業績が悪化したり、廃業の危機に陥ってしまう可能性はあります。
そのような状況になると経営者は、会社をそのまま廃業させるのか、それとも事業再生を目指すのかを選択することとなります。
経営者としましては、できることなら事業再生を目指したいところでしょう。事業内容に強みがあるならばなおさらです。
ただし、実際に事業再生を目指すとしても、今度はどのように再生していくのが、最適な手段を模索し、考えていかなくてはいけません。
事業再生M&Aは大きく分けて3種類に分類できる
事業再生は、大きく分けて以下の3種類に分類することができます。
他社を頼らない事業再生
「他者を頼らない事業再生」とは、その名の通り、そのほかの企業などの力を借りることなく、自力のみで事業を再生させることです。
不採算事業からの撤退など、具体的な改革を自社だけで進める必要があり、さらにはその中で収益を出していき、債務の弁済を目指すこととなります。
しかし、そもそも業績が悪化し、資金が枯渇したから事業再生を行う必要がでてきたわけであるため、自力での事業再生は困難を伴うケースが多いです。
また、仮に再生の目処がついたとしても、時間がかかってしまう可能性が高くなっています。
M&Aによる事業再生
「M&A」とは、「Mergers(合併)」and 「Acquisitions(買収)」の略で、直訳すると「合併と買収」という意味です。
M&Aによる事業再生とは、簡単にいえば「スポンサーがつく事業再生」となります。
たとえば、自社にとっての不採算事業があったとしましょう。
しかし、他社からすればそれは魅力的な事業の可能性があり、処理に困っていた不採算事業も、M&Aを活用した事業再生ならば、すぐにでも清算できるメリットが生まれます。
また、自社に資金力がなくとも、資金が潤沢にある企業の傘下に入ることで、金銭的な支援を受けることができる可能性もあります。
資金の後押しを受け債務が弁済できれば、早期的な事業再生も望めるようになるのです。
倒産による事業再生
「倒産」というキーワードだけ聞くと、「倒産=廃業」と捉えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実際には違います。
倒産手続きには、発生した債務と共に会社を廃業させる「清算型」と、会社を存続させつつ事業再生を計画していく「再建型」の2種類があります。
再建型の手続きを取れば、廃業せず再建の道を模索することが可能となるのです。
また、債務をどのように整理していくか、会社は「法的整理」と「私的整理」のどちらかを選択できます。
法的整理は、法的手続きに従って裁判所の管轄下で倒産処理を図る手続きであり、裁判所の監督下で行われるため、不正が入りにくく「債権者に対して公平」という特徴があります。
私的整理は、法的整理に頼らずに、債権者と債務者との自主的協議により倒産処理を図る手続きです。
私的整理の場合は「倒産企業」のレッテルを貼られることがないため、取引関係や事業価値が毀損されにくくなっています。
どちらもメリット・デメリットがありますが、会社(債務者)としましては、事業規模や実態に合わせ、手続きを柔軟に変更したり簡素化することができる私的整理の方が、事業再生の手法として効率がよく、対応もしやすくなってます。
3つの事業再生M&A方法を比較
上記の3つの事業再生方法を比較すると、他社を頼らない自力での事業再生と、倒産手続きによる事業再生には共通点が多く見受けられることがわかります。
倒産手続きによる事業再生も、債権者などの関係者が関与する可能性はありますが、他社からの支援を受けることができるわけではないため、結局は自社の力で債務整理などを進めなくてはいけません。
そもそも、債務を弁済するためのプラスの資産が不足しているのに、自力で事業を再生することは大変困難であるため、他社を頼らない事業再生と倒産手続きによる事業再生は時間や手間がかかってしまうという共通のデメリットがあります。
また、債権者へ弁済を行なっていく仮定でトラブルが発生するリスクもあり、さらには、倒産手続による事業再生を図る場合には、法的整理の場合などで手続きが複雑化してしまう可能性もあります。
その反面、M&Aによる事業再生はメリットが多く、「まず外部からの支援を受けることができる」非常に大きなメリットがあります。
また、不採算事業の清算、財務状況の安定化、経営基盤の強化などを図ることができるため、事業再生を効率化させることが可能です。
勿論M&Aも、手法によっては手続きが複雑化する可能性はあります。
しかし、それを差し引いたとしても、M&Aによる事業再生がかなり有効であることがわかるかと思われます。
近年では投資ファンドによる事業再生M&Aも発生
事業再生M&Aの一種として、ここ数年では投資ファンドが再生会社のスポンサーに就任しているケースもあります。
たとえば、再生が必要な局面にある企業の譲渡価額は、通常の取引価格より安価になるケースが多く、もしその企業を再生できれば、高値で売れる可能性が高いです。
そのようなリターンを目論み、投資ファンドが投資対象として再生会社のスポンサーに就任するのです。
また、事業再生を目指す会社としても、要は事業再生M&Aと変わらないため、一般的には、自力だけで再生を目指すよりも迅速に再生を果たすことができるとされています。
勘違いされやすい「事業再生M&A」と「企業再生M&A」
何気なく使われている「事業再生」と「企業再生」ですが、実際には内容の異なる言葉となっています。
ただし、そこまで複雑なものではありません。まず、事業再生とはその名の通り、「事業を再生させる」という意味を持ちます。
ですが、事業を再生させるためには、そもそも企業が存続していなくてはいけません。
よって、企業を存命させつつ事業を再生していくことが「事業再生」となります。
逆に、企業再生とは、とりあえずは企業を存在させていくことを最低限の目標にすることを指します。
会社の業績や財務状況がどのような状態であろうとも、とりあえず企業として維持できているならば、それは企業再生といえるのです。
たとえば、銀行AからB社がお金を借りていたとしましょう。
仮に、B社が倒産状態に陥った場合、当然銀行AはB社から債権を回収することとなります。
しかし、万が一B社が破産してしまえば、銀行AはB社から債権を回収することが困難となります。
よって、B社が破産することは銀行Aとしても避けなくてはいけません。
そこで、銀行Aは「企業再生」のために、B社へ再生支援を行います。
これは、債権者である銀行Aが、債務者であるB社にとりあえず企業として維持してもらわなくては困るためです。
このように、事業再生と企業再生は、状況に応じて使い分けるのが正しい表現となります。
「事業再生M&A」と「企業再生M&A」は実際には大別されないことが多い?
内容の異なる「事業再生」と「企業再生」ですが、実際には大別されないことも多いです。
なぜならば、企業再生と表現する場合でも、その中には事業再生という意味も含めて使われるケースが多いためです。
また、債権者の心情としましても、企業をただ維持するだけでなく、事業を再生してもらった方が、経済的な意味も含めてメリットが大きいため、事業を再建することを含めて「企業再生」といわれるケースも珍しくありません。
事業再生M&A手法「第二会社方式」
「第二会社方式」とは、M&Aによる事業再生の手法です。
過剰債務を整理する、代表的なM&A手法である第二会社方式は、収益性のある採算事業を事業譲渡や会社分割によって承継させ、将来の事業継続に不要と判断したものは移転元の企業へ残し、特別清算によって法人格を消滅させます。
移転元の企業は消滅してしまいますが、収益性が高い事業は事業譲渡や会社分割によって引き継がれているため消滅することがなくなり、第三者のスポンサーにとっても、旧会社に帰属する偶発債務等のリスクを回避できる効果が生まれます。
『第二会社方式』と呼ばれる理由
事業は以下のように継承されていきます。
- 事業譲渡と吸収分割の場合=既存の会社へ継承
- 新設分割の場合=新たに設立する会社へ継承
上記のように、既存の会社または新設の会社が「第二会社」となり、その会社に事業を承継させるため、この事業再生手段は『第二会社方式』と呼ばれます。
移転元企業の特別精算
通常、第二会社方式における移転元企業は、法的整理を利用して清算し、法人格は消滅します。
ただし、精算を実行するためには、債権者と交渉し理解と一定の合意を得なくてはいけません。
そのため、特別精算を行う場合は、これまでの経緯を理解している代表取締役などが清算人となって手続きをする、『特別清算手続』を実行するケースが多くなっています。
特別精算の手続きの流れ
「特別精算」とは、株式会社に適用される制度です。
特別精算は会社法で定められた清算手続であり、第三者の管財人は選任されることなく、その代わりに上記の通り、代表取締役などの株式会社の解散時に選任される清算人が、精算する会社の資産などを換価・処分していきます。
また、特別精算は、以下のような流れで遂行されます。
債権調査、協定案の作成
債権調査後、財産の換価によって得た資金を原資として、各債権者に対する弁済の額等を定める協定案を作成する。
債権者集会の開催
作成した協定案について、債権者に賛否を問う債権者集会を開催する。
また、債権者集会によって、席した議決権者(債権者)の過半数の同意、および議決権者(債権者)の議決権の総額(債権総額)の3分の2以上の議決権を有する者の同意を得ることができれば協定案の可決が決定され、裁判所の認可決定が確定すると効力が生じる。
ただし、同意が過半数以下、もしくは3分の2以上の議決権を有する者の同意を得ることができない場合は、原則として破産手続に移行しなくてはならない。
破産手続
破産手続きを開始した場合、まずは第三者の破産管財人(弁護士)が選任され、財産の換価・処分が行われる。
債権者は所定の期間内に債権届出を行い、破産管財人は破産財団の換価によって得た資金を原資とし、届出を行った各債権者の債権額に応じて平等に配当を実施する。
事業譲渡と会社分割!事業再生M&Aに適切な方法を選択!
メリットの多い事業再生方法である第二会社方式ですが、必ずしも成功するわけではありません。
よって、成功させるためにも、事業譲渡と会社分割の流れを知り、適切な方法を選択する必要があります。
事業譲渡の場合ですと、会社分割のような債権者保護手続きは不要なのですが、資産や負債などの個別の移転手続きを行わなくてはいけません。
その反面、会社分割の場合は包括承継となるため、原則として個別の移転手続きは不要ですが、債権者保護手続きは必要となってきます。
これらは、会社の規模などの各条件によって、どちらが適切な手段となるかは異なります。
たとえば、中小規模のM&Aである場合、個別の移転手続きはそれほど多くない傾向にあります。
よって、債権者保護手続きが発生する会社分割ではなく、事業譲渡の方を選択した方が、円滑に事業再生を進めることができるかもしれません
また、その逆も然りであり、M&Aの規模が大きければ、その分事業譲渡では個別の移転手続きが増えてしまいます。
よって、包括承継となる会社分割の方が、個別の移転手続きが不要であるため向いている可能性が高くなります。
ただし、実際にはこれほど単純な問題ではないため、最終的には多面的な視点から総合的に判断しなくてはいけません。
場合によっては適切な判断を下すために、弁護士などの専門家からのアドバイスを受けながら事業譲渡と会社分割のどちらを選択することを検討しましょう。
事業再生M&Aの流れ
事業再生M&Aの流れは、おおまかに以下のようになります。
①M&A戦略の策定 ↓ ②対象企業(スポンサー)の検索と決定 ↓ ③交渉 ↓ ④契約の締結 ↓ ⑤統合 |
まずは、具体的なM&A戦略の策定を行い、次に対象企業(スポンサー)を見つけます。
しかし、当然ですが、対象企業はどのような企業でもいいわけではありません。
事業再生は、2つの大きな目的があります。
まずは、自社の事業を適切な形で継続させること、もう一つは事業の再建を図ることです。
そのためには、自社の事業を任せられる企業を探し、また買収金額など、条件面で折り合える企業でないといけません。
たとえば、買収金額は、売り手にとって債務の弁済に充てる資金になるため、綿密な交渉が必要となります。
また、その際には高い交渉力を求められることから、弁護士などの専門家に相談、または交渉を一任するなどの手段も有効です。
対象企業を見つけ、交渉がまとまれば契約を締結していき、最終的にはM&Aによる統合が行われるという流れとなります。
事業再生M&Aのメリット・デメリット
ここでは、M&Aによる事業再生を行うメリット・デメリットをご紹介していきます。
事業再生M&Aのメリット
他社が事業再生を支援してくれる
M&Aによる事業再生を行えば、他社がスポンサーという形で関与し、資金面などでの支援を行ってくれます。
事業再生のための債務の弁済、事業の回復を図っていくためには資金が必要となります。
そのような状況で、支援という形で資金を援助してもらえるのは、大変大きいなメリットです。
資金面で余裕が生まれればとれる手段も増えるため、早期的な事業再生に繋がります。
また、資金を得ることができれば債権者に対して平等に弁済できる可能性も高くなるため、債権者にとっても納得のしやすい再建方法となります。
経営の効率化を進めることができる
不採算事業の切り離しなどは、M&Aによる他社の関与があるからこそ実現します。
経営の効率化を図ることができ、自社としても採算事業に集中することができるため、結果的に事業再生を円滑に進めることが可能となるのです。
さらには、M&Aによるシナジー効果にも期待できます。
事業を譲渡することにより、事業の劣化を回避することができる
再生手続(倒産処理手続)から切り離す(譲渡する)ことで、毀損することなく事業を維持、または再建を図ることが可能となります。
「第二会社方式」も可能となる
M&Aによる事業再生には、自社に不採算事業を残したうえで特別清算手続きに入り、他社に採算事業を受け継いでもらう「第二会社方式」もあります。
第二会社方式ならば優良事業のみを残すことが可能であり、不採算事業のみを消滅させることができます。
また、事業譲渡で債務リスク等を除外して新会社に承継することにより、想定外の債務引き継ぎを回避できるメリットも生まれるのです。
M&Aによる事業再生ならば、第二会社方式を含む様々な手段を検討することができます。
事業再生M&Aのデメリット
高度な知識が必要となる
M&Aによる事業再生を行う場合、M&Aに関する高度な知識が求められます。しかしながら、大半の方はM&Aに関する知識持ち合わせていません。
よって、多くのケースで、弁護士などの専門家へ相談し、サポートを受けながら事業再生を目指すこととなります。
ただしその際には、事業再生に伴う手続き費用などの他にも、専門家に対する報酬も考慮した上で資金を用意しておかなくてはいけません。
M&Aに関する高度な知識が必要であること、そして専門家に対する報酬が必要となる点は、事業再生M&Aのデメリットであるといえるでしょう。
最適な事業が見つかるまでに時間がかかる可能性がある
M&Aによる事業再生は、どのような企業でも行えるわけではありません。最適な対象企業とM&Aが成立してこそ、高い効果に期待できます。
しかし、適した企業がすぐに見つかる保証はなく、さらには、手続きが複雑化すればするほど企業が見つかるまでに時間がかかってしまう可能性が高くなってしまいます。
「最適な事業がすぐに見つかる保証はない」という点は、事業再生M&Aのデメリットです。
まとめ
日本では、年々M&Aの件数が増加しています。
2019年4月には、単月ベースではデータをさかのぼれる1985年以降で過去最大となりました。
また、非中核事業を切り離す再編型や、中小企業による事業承継型のM&Aはどんどん活発になっており、今後もM&Aによる事業再生を試みる企業は増えていくことが予想されます。
ただし、M&Aによる事業再生は高度な専門的な知識が必要となり、また企業間での交渉で高い交渉力も求められます。
そのため、M&Aによる事業再生を行う場合は、円滑に、そして有利に事業再生を図っていくためにも、専門家である弁護士のサポートを受けることを検討してみましょう。