開始時現存額主義 保証人と主債務者の双方が倒産した場合の債権額

開始時現存額主義とは

開始時現存額主義とは、複数の全部義務者(主債務者と保証人、連帯債務者等)について倒産手続が開始した場合に、債権者が倒産手続開始の時に有していた債権の全額をもって手続に参加することができるという原則をいいます。

破産法は、数人が各自全部の履行をする義務を負う場合において、その全員又はそのうちの数人若しくは一人につき破産手続開始の決定があったときは、債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額についてそれぞれの破産手続に参加することができると定めております(破産法第104条第1項)。

民事再生法第86条第2項及び会社更生法第135条第1項にも同旨の規定があります。

制度の意味を具体例で

債権者が主債務者に対して1億円の債権を有し、保証人がこれを保証しているとします。主債務者及び保証人の双方について破産手続が開始いたしました。

その後、主債務者の破産手続において3,000万円の配当を受けたといたします。この場合であっても、保証人の破産手続におきましては、なお1億円の債権をもって配当を受けることができます。7,000万円に減額されるのではありません。

これが開始時現存額主義です。手続開始の時に現存していた債権額を基準として固定し、その後の一部弁済によって手続参加の額を減じないという趣旨です。

制度が置かれている理由

保証及び連帯債務は、債務者が複数存在することにより債権者の回収可能性を高める制度です。仮に一方の手続で配当を受けるごとに他方の手続における債権額が減少するといたしますと、複数の債務者を確保した債権者の期待が損なわれます。

また、手続の進行に応じて債権額が変動いたしますと、配当額の計算が著しく煩雑となります。債権額を手続開始時に固定することにより、事務処理の安定も図られております。

全額の弁済を受けた場合の例外

開始時現存額主義には重要な限界があります。債権者が債権の全額の満足を受けた場合には、もはや手続に参加することができません(破産法第104条第2項)。

すなわち、一方の手続における配当及び他方からの弁済により債権の全額を回収したときは、それ以上の配当を受けることはできません。二重の利得を認めるものではないのです。

この点につき、最高裁判所は、破産手続開始後に一部の弁済がされた場合であっても、債権の全額が消滅しない限り、開始時の債権額をもって配当を受けることができる旨を明らかにいたしております。

求償権との関係

保証人が主債務者に代わって弁済した場合、保証人は主債務者に対して求償権を取得いたします。もっとも、債権者が開始時現存額主義により手続に参加しているときは、保証人はその求償権をもって手続に参加することができません(破産法第104条第3項)。

債権者と保証人が同一の債権について二重に手続参加することを防ぐ趣旨です。ただし、債権者がその債権の全額について配当を受けた場合には、保証人は求償権の範囲内で債権者の権利を行使することができます(同条第4項)。

実務上の留意点

債権者の側におかれましては、第一に、複数の全部義務者につき倒産手続が開始した場合、それぞれの手続に開始時の債権全額で届出をすることが基本です。第二に、他の手続における配当の受領状況を管理し、全額の満足に達した時点で届出を取り下げる必要があります。

保証人の側におかれましては、債権者が届出をしている限り求償権による届出ができませんので、債権者の届出状況を確認する必要があります。

破産管財人の側におかれましては、他の手続における配当の状況を把握しないまま配当いたしますと、過大な配当となるおそれがあります。

よくあるご質問

質問1 物上保証の場合も同じですか。
物上保証人が担保権を実行された場合につきましても、同様の考え方が妥当いたします。

質問2 手続開始後に主債務者が任意に弁済した場合はどうなりますか。
債権の全額が消滅しない限り、開始時の債権額をもって手続に参加できます。

質問3 利息及び遅延損害金はどう扱われますか。
破産手続開始後の利息及び遅延損害金は劣後的破産債権となります(破産法第99条第1項第1号)。開始時現存額主義の対象となるのは開始時に現存する債権額です。

まとめ

開始時現存額主義は、複数の全部義務者が存在する場合における債権者の地位を保護する原則です。もっとも、全額の満足を受けた場合には手続参加が制限され、保証人の求償権との調整も図られております。

複数の倒産手続が並行する事案におきましては、届出額の管理と配当状況の把握が実務上の要諦です。

本記事の根拠条文

破産法第99条第1項第1号、第104条。民事再生法第86条第2項。会社更生法第135条第1項。

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    弁護士土屋勝裕
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