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民事再生会社をM&Aをする場合
民事再生中の会社をM&Aする場合、通常、事業譲渡で行うと思いますが、民事再生中であることから数多くの留意点があります。
民事再生に基づく事業譲渡
この点、民事再生法では、①再生手続開始決定後早々に、裁判所の許可を得て、事業譲渡を行うことができますし、②民事再生手続きの最後まで待ち、債権者の承諾を得て再生計画に基づき、事業譲渡を行うこともできます。
①の裁判所の許可を得て事業譲渡を行う場合ですが、債権者の承諾を得る前に事業譲渡を行うわけですので、事業譲渡価格の適正性など、債権者を保護するための手続きが必要ですし、また、労働者を保護するため労働組合等の意見を聴く必要もあります。裁判所は、それらを踏まえ、適切であると判断した場合に、事業譲渡の許可を出します。
②の再生計画に基づき事業譲渡を行う場合ですが、再生計画自体、債権者の承諾が必要ですので、勿論、事業譲渡価格の適正性などが前提です。
裁判所・債権者が決定した事業譲渡価格は企業価値ではないのです!!
なお、よく勘違いされることですが、裁判所が指定した事業譲渡価格なので大丈夫だとか、裁判所が指定した事業譲渡価格でM&Aを行ったので利益が出るはずだとか、裁判所から会社を買うのだから大丈夫だなどとおっしゃる方がいます。
しかし、この裁判所が指定した事業譲渡価格は、対象事業の事業価値とは全く関係のない数字であることを理解しないといけません。
すなわち、民事再生手続きにおいては、清算価値保障原則というものがあります。
清算価値保証原則とは、再生手続において、すべての債権者に対し破産手続による配当率(清算配当率)を上回る配当を行うことができないのならば、裁判所はその会社を再生させることなく破産させなければならないという原則です。
破産になってしまうと、会社が消滅してしまいますし、従業員も解雇になってしまいますし、取引先にも迷惑をかけてしまいますので、民事再生中の会社は、何が何でも破産を避けようとします。すなわち、事業譲渡により、破産手続による配当率(清算配当率)を上回る配当を行うことができる代金を獲得しなければいけませんので、事業価値が毀損して、どうにもならなくなっている会社であればあるほど、事業価値を大幅に上回った事業譲渡価格を設定しなければならないのです。
「○○○○円より高い価格でないと事業譲渡することができない!!」というのはそういう理由からであって、決して、その会社がそれだけの価値があるからではありません。
事業価値はマイナスかもしれません!!
また、ときどき、「民事再生は裁判所が企業価値を保証してくれているんですよね」「裁判所が民事再生により企業価値をプラスにするのですよね」と勘違いされ、安心して??民事再生会社をM&A買収する会社がいます。
しかし、民事再生手続き、企業価値としては、時価純資産法の観点からはゼロ以上とするにとどまります。企業価値が大きなプラスであるのならば、もっと多くを銀行などの債権者に配当すべきということになるので、企業価値はゼロすれすれのはずです。また、収益還元法(DCF法)の観点からもプラスであるとまでは言えません。将来の経営状態がどうなるかなど裁判所に分かるものではありません。また、民事再生手続きをスームーズに進めるため、企業価値が、時価純資産法の観点からもマイナスなのに、弁護士・公認会計士がペンを舐め舐め上手く絵を描いて、民事再生手続きをしてしまっているかもしれません。
民事再生中の会社こそデューデリジェンス(DD)が重要
ではそのような民事再生中の会社を割高でM&Aしてしまうことを避けるためにはどうすればよいでしょうか。
デューデリジェンス(DD)をするほかないのです。
民事再生を申し立てている会社ですので、ただでさえ問題が山積みですので、そういう理由からもデューデリジェンス(DD)しないのは自殺行為です。
また、民事再生を申し立てることで取引先との契約が解除されていたり、終了していたりすることも多く、取引先も離散しつつあります。従業員も会社を見離し始めているかもしれません。
裁判所から民事再生中の会社を買収するのだとしても、裁判所が会社の重要な経営資源が残存していることを補償してくれるわけではありません。また、民事再生中の会社の事業譲渡では、通常、買主は、損害賠償責任を問えないこととなっていますので、対象事業に瑕疵があったとしても、後日、事業譲渡代金の減額とか、損失補填などもしてもらえません。現状有姿での譲渡なのです。そういう意味でも、デューデリジェンス(DD)が非常に重要になってくるのです。
破産手続きに移行後にM&Aをすることも選択肢
デューデリジェンス(DD)の結果、対象事業の事業価値は、どう考えても提示された事業譲渡価格よりも低額であるという場合、そこで無理をしてM&Aを行う必要はありません。
民事再生手続きを廃止して頂いて、破産手続きに移行してもらったうえで、破産手続きに基づいてM&Aを行えばよいのです。破産手続きには清算価値保障原則は存在しませんので、その時点での処分価格でM&Aを行うのです。
すなわち、民事再生中の会社のM&A方法としてどのような方法が良いのか、どの手続きが最善か、これらの諸般の事情を考慮して、検討することが重要です。