自己破産しても残る財産とは?

様々な理由で借金が膨らみ、もはや弁済することが不可能となってしまった場合に利用できるのが自己破産手続きです。

自己破産をすると身ぐるみ全部剥がされて財産を没収されてしまうという、非常にネガティブなイメージを持つ人が多いですが、実はそうではありません。

法的な救済手段である自己破産は債務者の人生を立て直すためにあるものですから、生活に必要な最低限の財産は残してもらうことができる仕組みになっています。

本章では自己破産をしても没収されずに残せる財産について詳しく解説していきます。

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自己破産しても残る財産とは?

自己破産は一般的な借金を帳消しにできる非常に強力な作用があります。

しかしその裏には、債権を回収できなくなり泣きをみる債権者の存在があるので、本人にめぼしい財産があればこれを原資にして債権者に分配しなければいけません。

もし本人にめぼしい財産がほとんどない場合は「同時廃止」という手続きになり、この場合は財産の没収はありません。

■自己破産をしても没収されない「自由財産」がある!

しかし、めぼしい財産がある場合は「管財事件」という扱いになり、本人の財産は没収されます。

没収された財産は破産管財人が管理し、必要に応じて換価するなどして債権者への分配原資に充てられることになります。

いわゆる「身ぐるみ剥がされる」という自己破産イメージは、管財事件における財産没収から来ていると言って良いと思いますが、没収されずに本人の手元に残して置ける財産がいくつかあります。

これが「自由財産」というものです。

自己破産は破産者が人生をやり直せるようにチャンスを与えるものですから、生活に必要な最低限の財産=「自由財産」を残してあげるということですね。

「自由財産」の範囲について?!

自由財産となるものを以下で確認しましょう。

①99万円以下の現金

目下の生活で重要なのはすぐに使える現金です。

99万円以下の現金は自由財産として残してもらえますが、あくまで現金であって預金ではないことに注意してください。

例えば30万円の現金と69万円の預金があるとしたら、自由財産となるのは現金の30万円だけで、69万円の預金は原則として自由財産とはなりません。

②差押禁止財産

法律で差し押さえが禁止されている財産は、自己破産によっても没収されないので自由財産となります。

例えば公的年金や生活保護費などは差し押さえが禁止されているので、自己破産をしても没収されません。

他にも冷蔵庫などの生活家電や机、ベッドなどの生活必需品も差押禁止財産となるので没収されず、自由財産となります。

③新得財産

裁判所により自己破産手続き開始決定がなされた後に本人が取得した財産を「新得財産」といい、これも自由財産として没収対象から外れます。

没収されるのは破産手続き開始決定がなされるまでに保有している財産が対象です。

④破産管財人が権利を放棄した財産

破産管財人が没収対象にせず権利を放棄した財産も自由財産となります。

本来は財産的価値を持つものでも、換価することが難しい財産は没収対象から外されることがあります。

例えば買い手がほとんど付かない山奥の土地などは、換価するのが困難として管財人が権利を放棄することがあり、その場合は自由財産となります。

⑤拡張された自由財産

原則として自由財産になるのは上記で見てきた財産だけですが、生活するのに不可欠な財産というのは人によって差が出ます。

そこで、裁判所の職権で、または裁判所の許可を得ることで自由財産の範囲を広げてもらうことができ、これを自由財産の拡張といいます。

これについて、次の項で詳しく見ていきます。

■自由財産の拡張はどんな場合に認められるのか?

人によっては、原則的な自由財産だけでは最低限の生活を送れないこともあります。

例えば仕事にどうしても必要だったり、体が不自由でどうしても自動車が必要だという人から自動車を取り上げてしまうと、本人の生活再建が難しくなってしまいます。

また病気で医療費がかかる人の生命保険を解約させて解約返戻金を没収してしまうと、必要な治療を受けられなくなってしまいます。

こうしたことを考慮して破産法では、破産手続き開始決定が確定した日以後1か月を経過するまでの間、裁判所の職権または本人の申し立てにより許可を得ることで、自由財産の範囲を拡張することができると定めています。

「自由財産」の拡張の範囲について?!

基本的には、本人が生活に必要な財産であることを裁判所に説明するため申し立てをしなければなりませんが、東京地方裁判所などは自由財産の拡張対象になる財産があらかじめリスト化されており、破産者本人が説明や証明などをすることなく自動的に認められるようになっています。

東京地方裁判所では以下のような財産が自動的に拡張対象となります。

①残高20万円以下の預貯金(複数の口座がある場合はその合計額として)

②20万円以下の生命保険解約返戻金(複数の保険を持つ場合はその合計額として)

③換価見込み額が20万円以下の自動車

④住んでいる自宅の敷金を返してもらう権利

⑤電話加入権

⑥一定の家財道具類

⑦退職金の支給見込み額の全部または一部

最後の⑦を細かく言うと、支給見込み額が160万円未満の場合は全額が拡張対象になり、160万円以上の場合は支給見込み額の8分の7相当額が拡張財産となります。

これらの財産は自動的に拡張対象になるので、本人が申し立てをしなくても自動的に自由財産として認められます。

以上はあくまで東京地方裁判所における話ですが、自動的に拡張対象になる財産リストは「自由財産拡張基準」、あるいは「換価基準」などと呼ばれ、裁判所によってその基準が異なります。

各地の裁判所で取り扱いが異なるので、必要があれば現地の事情に詳しい弁護士に確認するようにしてください。

また、自由財産拡張基準に収まる財産以外については、本人の生活に必須であることを認めてもらうために裁判所に申し立てをしなければなりません。

裁判官を納得させるために効果的な説明をしなければならないので、説明資料を準備するなどの手配が必要です。

現実的には、申し立てをしても相当厳しく判断されると考えてください。

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■会社経営者の場合はより多く財産を残せることも

自己破産を考える方が会社経営者(経営者の一定の親族を含む)で、会社が有する債務の保証人になっている場合、自己破産手続きよりも多くの財産を残せる可能性があります。

従来、中小企業を経営するにあたり金融機関から融資を受けるには、ほぼ必ず経営者やその親族が保証人となることを求められ、万が一の際には過大な債務弁済の責任を負い、路頭に迷ってしまう事案が多くあり問題視されていました。

そこで、金融庁や経済産業省が音頭を取り、「経営者保証ガイドライン」というものが策定、運用されています。

経営者保証ガイドラインとは?!

ガイドラインの趣旨としては、経営者等に過度な債務保証を負わせることを極力避け、どうしても保証債務を負わせなければならない場合でもその負担を可能な限り軽くし、万一経営が行き詰まってしまっても、その後の生活の維持や経営再建を容易にすることを目的としています。

経営者を守ることは、経済を維持して日本全体の国力を維持することにつながりますから、国としても経営再建を容易にすることが重要と考えています。

経営者保証ガイドラインに沿った債務整理を進めることができれば、自己破産手続きを取る場合に比べてより多くの財産(インセンティブ資産)を残せる可能性が高まります。

ただし、このガイドラインは法的拘束力がないため、債務整理の中でも任意整理の性質を持ち、債権者の合意を取り付けることができなければ上手くいきません。

また自己破産と経営者保証ガイドラインによる債務整理のどちらが実際に有利になるは個別ケースで検討を要します。

有利・不利の判断は様々な事情を考慮しなければならず、またガイドラインに沿った債務整理を進める場合は債権者への丁寧な説明と納得の取り付けに相当の力を使います。

素人だけで進めるのはかなり大変で、失敗すると大きな痛手を被ることになるので、信頼できる弁護士の助力を得ながら検討するのが賢明です。

ではガイドラインに沿った債務整理を上手く進めることができた場合、どれくらいのインセンティブ資産を残すことができるのか次の項で見ていきます。

■経営者保証ガイドラインで残せるインセンティブ資産

ガイドラインによる債務整理で残すことができるインセンティブ資産は、保証人となっている経営者等の責任の軽重や債務不履行に至った経緯など複数の要素によって変わってくるので、全てのケースで一律に考えることはできません。

以下では手続きや交渉が上手くいったと仮定して、どれくらいの財産を手元に残せるか見ていきます。

「インセンティブ資産」の範囲について?!

まず、自己破産においても認められる99万円以下の現金(ガイドラインによる場合は預金等も含みます)については、まず問題なく本人の手元に残すことができます。

加えて、交渉によって以下のような財産をインセンティブ資産として加算することが可能です。

①年齢に応じた一定期間の生活費

雇用保険の考え方を取り入れたもので、一か月の生活費を33万円としたうえで、年齢に応じて一定期間分の生活費を加算する考え方です。

表にしてみると以下のようになります。

対象者の年齢 期間
30歳未満 90日~180日
30歳以上35歳未満 90日~240日
35歳以上45歳未満 90日~270日
45歳以上60歳未満 90日~330日
60歳以上65歳未満 90日~240日

例えば40歳の方であれば、一か月33万円として3ヶ月から9か月分、99万円~297万円の範囲でインセンティブ資産として認められることになります。

②華美ではない自宅

贅沢にならない範囲の自宅もインセンティブ資産として残すことができます。

ただし、華美ではない、贅沢ではない範囲という基準があいまいなため、どのような地域に住んでいるのかや、本人の誠実さ、あるいは有責性などを総合的に考慮して考えていくことになります。

また自宅に住宅ローンが残っているかどうか、主たる債務者である会社の融資で担保に供与されているかなどによっても取り扱いが変わってきます。

それでも、自己破産では自宅を残すことができないことを考えると、本人にとっては有利に働くことが多いでしょう。

③その他

経済的合理性があると認められる範囲で、上記以外の財産もインセンティブ資産に加えられる可能性があります。

例えば本来は解約して返戻金をとれる生命保険があったとしても、本人に持病があり医療費が多くかかるようであれば、解約せずに残してもらえる可能性があります。

もっとも、そうした必要性を丁寧に債権者に説明して納得を得る必要があるので、認めてもらうハードルはそれなりに高いと覚悟しておく必要があります。

■まとめ

本章では自己破産をしても没収されずに手元に残せる財産について見てきました。

法律上の制度である自己破産においては、没収対象とならない自由財産が規定されています。

さらに一定の範囲で自由財産の拡張も認められており、本人の申し立てによって認めてもらう道もありますが、裁判所によっては自動的に一定枠を認めてもらえることもあります。

会社経営者(一定の親族含む)で会社債務の保証人なっている場合、自己破産手続きによらず、経営者ガイドラインにそった債務整理を進めることで、より多くの財産を残すことも可能です。

いずれの場合も、債務整理に詳しい弁護士の助力を得れば、素人だけで進めるよりも多くの財産を残せる可能性が高まります。

財産がある程度残っているうちに、余裕をもって専門家に相談することをお勧めします。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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