経営が悪化して売上の減少が続くと、会社の経営が難しくなります。もちろん経営者の努力次第で立て直せる場合もありますが、たとえば長引く不況が原因で経営悪化に陥っているような場合は簡単にはいきません。
経営を立て直すために最大限の努力をすることは不可欠ですが、努力を続けても立て直すのは厳しいと感じたときは、早めに法人破産などの手続きを検討することが必要です。
ただし、法人破産にはメリットだけでなくデメリットもあります。メリット・デメリットをきちんと理解し、会社にとって最適な選択をすることが大切です。法人破産の手続きには専門的な知識が必要になるため、弁護士に相談しながら手続きを進めていくのが望ましいです。
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法人破産・会社破産のメリット
メリットとしては、大きく分けて3つが挙げられます。
債務が免除されるという具体的なメリットのために法人破産を選ぶことが多いですが、それ以外に、精神的な部分で安心感を得られるようになる点も重要です。
負っている債務の免除
もっとも大きなメリットは、やはり債務が免除されることだといえます。正しい流れで法人破産の手続きを進めていくと、法人が負っている債務が全額免除されるのです。ただし、全く返済しないままで済むわけではありません。法人破産の手続きを開始した時点で残っている資産を換価処分し、得られた金銭を債権者に返済するのです。その上で、まだ残っている債務については免除されます。
資産を換価処分して債権者に返済すれば残りが免除される点は、負っている債務が少額の場合でも多額の場合でも変わりません。したがって、早い段階で法人破産の手続きに入れば、それだけ負担が軽くなります。この債務免除は破産法に基づくものなので、裁判所が破産手続き開始を決定すれば、債権者が法人に対して返済を求めることはできません。債権者にとっては不満の残る結論ですが、破産法が債務者に認めた権利だと考えられます。
取り立てがなくなる安心感
法人破産の手続きは、法人の経営者ではなく代理人の弁護士が行うのが基本です。弁護士に手続きを依頼すると、弁護士が債権者に対して受任通知を行います。この受任通知が行われた後は、債権者から経営者に対する取り立て・督促などがなくなります。債権者対応は弁護士が行うのです。たいていは複数の債権者がいますが、弁護士から全ての債権者に連絡するので、債権者の人数が多くても心配することはありません。
経営者としては、早めに法人の債務に関する一連の問題を解決して新たなスタートを切りたいわけですが、債権者からの取り立てに対応しなければならないのでは考える余裕がなくなります。法人の経営者にとって、債権者による取り立ては大きな負担なのです。この負担がなくなれば、落ち着いて考える時間を作れるようになります。
ただし、弁護士が受任通知を行っただけで債務が免除されるわけではありません。法人破産の手続きを進めていかないと、債権者から訴訟を起こされたり、強制執行を求められたりする可能性があるため注意が必要です。手続きが完了して初めて債務が免除されるので、早めに具体的な手続きに入らなければなりません。
経営者の生活の立て直し
個人で行う破産とは異なり、法人破産を行う場合は法人自体が消滅します。法人消滅の結果として債務が免除されるのです。債務を負っているままでは返済方法について考えるばかりの日々が続き、新しい生活を考えることができません。
しかし法人破産によって債務が免除されれば、新たな生活をスタートさせるチャンスが生まれます。破産手続きが完了して法人が消滅した場合、経営者が自動的に責任を負うわけではありません。連帯保証人になっているような事情がない限り、経営者自身は特別な責任を負わないのが原則です。そのため、新たな事業を始めることも可能になります。
法人破産をすると、債権者に迷惑をかけてしまうように見えます。しかし、実は債権者にとっても悪いことではありません。破産手続きが行われていると、回収できていない債権額は貸倒損失という形で損金に計上することができます。これにより、税務上のメリットが生まれるのです。返済してもらえる可能性が極めて低い債権を持ち続けるよりは、法人破産の手続きに移行した方が得になると考えられます。
法人破産・会社破産のデメリット
大きなメリットがある方法なので、法人破産は経営者にとって非常に有利な方法だと思われます。しかし、さまざまなデメリットもあることに注意が必要です。むやみに法人破産の手続きに入ってしまうと、望ましい結果につながらない可能性があります。
メリットとデメリットをしっかりと比較し、メリットの方が大きい場合に法人破産の手続きを進めていくことが大切です。主なデメリットとしては、以下の3つがあります。
法人の消滅・従業員の解雇
法人破産の効果として、法人自体が消滅してしまいます。それまで地道に努力してきた経営者としては、できれば法人の経営を続けていきたいものです。しかし、法人破産の手続きを進めていく場合はそれが認められません。また、法人自体がなくなってしまう以上、従業員を全員解雇することになります。
法人自体が消滅すると、長年にわたって作り上げてきた信用・ブランドなども失われてしまいます。経営者が生活を立て直して新会社を設立し、新会社にブランドを引き継いでいくことは可能ですが、当然のことながら相当な時間がかかるものです。したがって、従業員を雇ったままにはできません。
全資産の処分
債務が免除されれば経営者は得をすることになりますが、逆に債権者は大きな損害を被ることになります。そのため、法人の財産・資産を残したまま破産が認められるというのでは不当です。
破産手続き開始時点で法人が所有している資産は全て換価処分し、債権者に分配しなければなりません。原則として公平な分配が行われますが、優先的な弁済が受けられる例外もあります。
手続きに要する時間
法人破産したい旨を裁判所に申請したからといって、直ちに破産が認められるわけではありません。手続きが完了するまでの期間は法人の規模などによって変わりますが、1年くらいはかかることが多いです。また、弁護士に依頼したからといって、経営者の出廷義務はなくなりません。
法廷でのやり取り・内容が特に複雑なわけではないのですが、裁判所での手続きは平日に行われるため、破産手続きの間に就職するような場合は負担になります。
手続きの流れ
法人破産をすることに決めたら、どのような流れで手続きが進んでいくのかを理解しておくことが大切です。もちろん弁護士が中心になって進めていくため、細部まで把握する必要はありません。
とはいえ、ある程度まで理解していれば不安が小さくなります。法人の規模・従業員の人数などによって異なる部分も出てきますが、基本的な流れは変わりません。
弁護士への相談・依頼
まずは弁護士に相談するところから始まります。手続きをスムーズに進めるためには、この段階で正確な状況を詳細に伝えることが大切です。弁護士が依頼を受けると、全ての債権者に対して受任通知を出します。これ以降は債権者からの取り立て・督促がなくなります。
裁判所への申し立て
法人破産ができるかどうかは、弁護士と債権者が話し合って決めるものではありません。裁判所に破産の申し立てを行い、裁判所を通して解決することになります。
破産の申し立ては、破産しようとしている債務者側だけでなく、債権者側が行うことも可能です。この際、法人名義の預金通帳・登記簿謄本の原本など、さまざまな書類を提出します。書類が不足していると手続きが進められず、余計な時間がかかってしまうため注意が必要です。
破産管財人の選任
裁判所が破産手続きの開始を決定した段階で、法人は解散することになります。ここで、裁判所は法人の財産管理などに携わる破産管財人を選任します。
通常は弁護士が選任されるのですが、法人側に立って行動するわけではありません。破産管財人は、あくまでも中立の立場で行動します。
債権者集会
裁判所において行われる手続きです。債権者集会には、裁判官・破産管財人・経営者・弁護士・債権者が出席します。債権者も意見を述べることができる場ですが、債権者は出席しないことが多いです。
たいていは破産が認められるため、債権者が意見を述べても結論が変わる可能性は低いと考えられます。通常は短時間で終了するものなので、負担は大きくありません。ただし、1回で完了しない場合は2回目の債権者集会が行われます。
債権者への配当・手続き完了
法人の財産を換価処分し、破産管財人が債権者への配当を行います。債権者は公平に配当を受けるのが原則です。ただし、財団債権は破産法2条7項により優先的に弁済が受けられます。
財団債権に含まれるのは従業員給料などです。配当が済んだ段階で破産手続きが完了し、法人の登記簿が閉鎖されます。これにより、法人格が消滅するのです。
法人破産における弁護士の役割
法人破産の手続きを進めていくに当たっては、しっかりと弁護士に相談することが欠かせません。経営者の力だけで手続きを完了させることは不可能です。
法人破産の手続きは、どれだけ急いで行動したとしても数ヶ月から1年はかかってしまいます。経営者の努力だけで何とかしようとせず、少しでも不安を感じたら弁護士に相談する姿勢で臨むことが大切です。手続きに入るのが遅くなればなるほど、破産が認められるのも遅くなります。法人破産を行う際に、弁護士はさまざまな役割を担います。
経営者への助言
法人破産を視野に入れているときは、法人破産の案件を多く経験している弁護士に相談するのが基本です。弁護士が経営者からの相談を受けると、どのような形で問題を解決するべきかを一緒に考えていきます。もちろん最終的な結論を出すのは経営者なので、弁護士が一方的に指示するのではなく、さまざまな助言をするのが基本になります。
法人の現状や経営について悩んでいる点などを、できるだけ詳細に伝えることが大切です。話を進めていく中で、経営者自身が気づいていなかった解決策を弁護士が提示できる可能性もあります。
解決策の提示
法人が取りうる手続きというのは、実は法人破産に限られていません。他にも特別清算・民事再生・任意整理などがあるのです。経営者としては破産するのが一番だと思っていても、状況次第では他の方法を用いる方が好ましいケースもあり得ます。
たとえば、期限がもう少し延長されれば弁済できる可能性がある場合などです。弁護士に相談すれば、法人・経営者にとって最適な解決策を導き出すことが可能です。どの方法を用いるにせよ、専門的な知識が必要になることは変わりません。かかる費用や時間を最小限に抑えるためにも、弁護士に相談するタイミングは早い方がよいのです。
法人破産に関する手続きの代行
法人破産をすることに決まったら、弁護士は債権者に対して受任通知を送ります。この段階で、債権者から経営者への取り立て・督促がなくなるため、非常に重要なポイントです。
したがって、取り立てなどの連絡が多くて苦しんでいるときは、早めに法人破産を検討することが望ましいといえます。
経営者自身の破産にも対応
法人破産は法人の問題だから、法人のことだけ考えていればよいようにも思えます。しかし、実は経営者自身も破産を考えなければならないケースがあることに注意が必要です。もっとも気を付けなければならないのは、経営者が法人の債務について連帯保証人になっている場合です。
ここでは個人破産に関する専門知識が必要になります。連帯保証人になっている旨を弁護士に伝えれば、法人破産と個人破産を合わせて行うこともできます。
破産によって負うことになる経営者の責任
法人破産の手続きが完了すると、資産を換価処分して配当を行う部分を除き、法人が負っていた債務は全て免除されます。これにより債権者からの取り立て・督促を受けることが完全になくなり、新たな事業を始めるなどの再出発を考えられるようになるわけです。
しかし、経営者としては別の不安も付きまといます。すなわち、法人自体の債務は消滅しても、負っていた債務を自分が代わりに弁済する必要があるのではないか、という不安です。
結論としては、経営者が債務を負わなければならないケースと、経営者には責任が発生しないケースとがあります。どちらなのかが分からないと安心して手続きを進められないわけですが、この点に関しては特に難しい問題ではありません。経営者が法人の債務の連帯保証をしていれば責任が発生し、連帯保証をしていなければ責任が発生しないのです。ただし、小規模の法人では経営者が連帯保証をしているケースが多いため、事実上、経営者も責任を負うことになるケースが多いと考えられます。
責任といっても、ここで経営者が負うのは破産したことについての責任ではありません。つまり、破産の手続きに入る判断が間違っていた、という理由で責任を追及されるわけではないのです。あくまでも、法人が負っている債務を弁済する責任ということです。とはいえ、経営者・役員の責任を問われて損害賠償請求を受ける可能性もゼロではありません。ただ、その場合でも弁護士に相談すれば適切な解決ができるので安心です。
経営者や家族の財産
法人が破産することになった場合、法人の財産を全て処分することになるのは当然のことです。しかし、経営者自身が所有している財産まで処分して弁済に充てる必要はありません。
法人の財産と経営者の財産は、あくまでも別々のものなのです。同様に、経営者の家族が所有している財産に関しても、処分しなければならないということにはなりません。ただし、これは法人の債務を連帯保証していない場合の話です。
経営者が法人の債務を連帯保証しているときは、経営者自身が負う責任についても考えなければなりません。連帯保証というのは単純な保証とは異なり、ほとんど債務者と同等の責任を負うものなので、法人破産の場合における責任も重いものになります。
もっとも大きな影響が出るのは、マイホームを持っている人の場合です。金銭で債務を返済できれば問題ないのですが、返済できないときはマイホームを手放すことになる可能性があります。
破産管財人による否認権行使
経営者・家族が連帯保証人になっていなければ責任を負わないのが原則ですが、状況次第では責任を負うこともある点に注意が必要です。
確かに、原則として個人名義の財産は処分の対象になりません。しかし実質的には個人財産ではなく、法人の財産だと考えられる場合は処分の対象になりうるのです。
たとえば、法人破産の申し立てを行う前に、法人財産の名義を経営者・家族に変更するケースが考えられます。このような財産の移動を許してしまうと、債権者の利益が不当に害される結果になります。
また、法人破産の際の弁済に関しては全ての債権者が公平に扱われるのが原則です。そのため、たとえば一部の債権者にだけ弁済していた場合、債権者間の公平が守られなくなってしまいます。
債権者の利益を保護するために、破産管財人は破産法160条1項に基づく否認権を行使することができます。否認権とは、破産手続き開始前の名義変更・弁済などによって法人財産が減少した場合に、その行為の効力を否定できる権能のことです。
名義変更・弁済が悪質な財産隠しと見なされた場合、効力が否定されるだけでは済まず、破産犯罪として刑事罰の対象となる可能性もあるため要注意です。
経営者自身も破産する可能性
経営者が法人の債務を連帯保証している場合は、法人破産をする際に経営者も債務の弁済を求められます。しかし、法人の経営がうまくいかなくなって破産を考えている段階で、経営者に十分な資力があるとは考えにくいです。たいていの場合、経営者自身も返済することが不可能なのです。そのため、法人破産とは別に経営者自身でも債務整理の手続きを進めていくことになります。
個人が取りうる手段は、個人破産・個人再生・任意整理の3つです。どの手続きを選べばよいかを正しく判断するのは難しいので、早い段階で弁護士に相談することが大切です。ただし、全額を返済することになる任意整理の手続きを進めていくケースは事実上考えられません。
法人が破産しなければならないほどの債務はかなりの金額になっているはずで、経営者が個人で返済するのはほとんど不可能です。また、全額を返済することになるのでは、何のために法人破産したのか分からなくなります。
したがって、個人破産・個人再生のいずれかを選ぶ経営者が多いです。法人破産の場合と同様に、メリット・デメリットをしっかりと確認し、適切な方を選ぶ必要があります。どうしても債務の返済のことを重視してしまいますが、考えなければならないことは他にもあるため、慎重な判断が求められるのです。
たとえば、個人破産をすれば法人破産をしたのと同じように債務の負担がなくなります。しかし、当然のことながら所有している財産は全て失ってしまいます。マイホームで家族と一緒に住んでいる人の場合、マイホームを手放すかどうかの判断を迫られるわけです。
同じ家に住み続けたいのであれば、個人再生の手続きを進める方が適しています。ただし、個人再生には債務額が5,000万円以下という条件があるため、5,000万円を超える債務になっている場合は利用できません。
家族の責任
家族の責任についても、基本的には経営者自身の責任と同じように考えられます。まず、いきなり家族が所有している財産に対して差し押さえが行われるようなことはありません。たとえ経営者が連帯保証人になっていた場合でも、その家族の責任は別に考える問題です。
家族なのだから当然に同様の責任を負う、ということにはなりません。ただし、家族が連帯保証人になっている場合は責任を負わなければなりません。経営者・家族のどちらでも、原則として連帯保証人である場合に限って責任を負うことになるのです。
個人破産における弁護士の役割
経営者・家族が個人破産する場合も、弁護士に相談して話を進めていく必要があります。法人破産と似ている面もありますが、大きく異なる点もあるのです。
法人の場合は破産すると法人自体が消滅しますが、個人の場合は違います。破産したからといって、個人が消滅するわけではありません。そのため、個人破産の手続きが完了しただけでは終わらず、破産した後の生活をどうするかを考える必要があるのです。
最適な手続きの選択
法人の債務について連帯保証をしている場合、取りうる手段がいくつかあるため、弁護士に相談することで最適な手続きを選べるようになります。個人破産を選択することが多いですが、差し押さえの対象になる財産を持っていない年金生活者などの場合、個人破産をせずに済むこともあります。
破産に関する手続きの代行・助言
法人破産を行う場合と同様に、個人破産を行う場合も弁護士が手続きに携わります。経営者は法人経営に関してはプロですが、破産手続きには慣れていないのが普通です。スピーディーに手続きを進めていくためには、弁護士に相談することが欠かせません。
連帯保証人になっていて破産を検討しているときは、早めに弁護士に相談し、法人破産と合わせて個人破産の手続きを行うようにするのが効率的です。
法人破産・個人破産の手続きが完了した後にどうするかは、人によって異なっています。もう経営に携わらない生活に切り替える人もいれば、新たな会社の設立を考える人もいるわけです。いずれにせよ、個人破産をしたことの影響は少なからず出てしまいます。
たとえば、一定期間はクレジットカードやローンの申請ができなくなる可能性があります。法人破産を1つの区切りとして、新たな生活をスタートさせようとしているときは、破産による影響についてきちんと確認することが大切です。
まとめ
破産に対してマイナスイメージを持っている人もいますが、法人破産は債権者にとってもメリットのあるものなので、必要に応じて法人破産の手続きを取ることが望ましいです。
ただし、法人が消滅するだけで終わるとは限らず、経営者や家族にも影響が出てしまう可能性もあります。とりわけ注意が必要なのは、連帯保証人になっているとマイホームを失うことがある点です。弁護士に法人破産の依頼をする際に、合わせて個人破産に関する相談をして、負担を軽くするように努めることが望ましいといえます。