法人破産の手続を取る場合、弁護士に対して支払う報酬費用とは別に、裁判所に対して予納金を納付しなければなりません。手元に現金がない状態の会社では、破産手続を進められない可能性があります。
そこで本記事では、破産手続の実行を検討している経営者の方に向けて、破産手続に必要な予納金の概要や費用の相場、支払えない状況に陥った場合の対処法などをわかりやすく解説します。
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破産手続に必要な予納金とは
破産手続における予納金とは、破産管財人(破産法の破産手続において、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者のこと。通常は弁護士がその任に当たる)の報酬や管財事務に必要な費用に充てるための費用として、破産手続を実施する会社があらかじめ裁判所に対して納める費用のことです。
破産手続を進行させていくためには、官報公告などの諸手続を済ませなければなりません。また、破産手続が管財事件(破産管財人が選任される自己破産手続きのこと)に該当すれば、管財業務を行うための実費や破産管財人の報酬も必要とされます。
もちろん、破産手続において破産者の財産を換価処分して金銭を得られる会社であれば、それを上記の費用に充てることも可能です。しかし、そのためには時間がかかるうえに、場合によっては破産財団(破産者の財産または相続財産もしくは信託財産であって,破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するもの)をまったく形成できないケースも想定されます。
破産財団を形成できなければ、破産管財人に対して支払う報酬を確保できないため、破産管財人は破産手続を進めることができません。こうした事態を防ぐために破産手続の申立人である会社は、破産手続にかかる最低限の費用を予納金としてあらかじめ支払わなければならないとされています。
予納金の納付は破産手続開始の要件であり、実質的に破産申立人は予納金を支払わなければ破産手続の申し立てを行うことができないことから、予納金は破産手続を進めるうえで必要不可欠のお金だといえます。
破産手続における予納金の種類と費用相場
破産手続における予納金にはいくつかの種類がありますが、主として破産管財人の報酬に充てられる引継予納金がその大部分を占めます。予納金は、法律事務所へ自己破産を依頼した場合に支払う「弁護士費用」とは別にかかる点に注意しましょう。
なお、予納金の額は、破産手続の申し立て後に、裁判所が会社の状況を精査したうえで決定するため、申立の準備段階では具体的な金額はわかりません。
ここからは、破産手続における予納金の種類と費用の大まかな相場を解説します。
官報公告費用:10,000円〜19,000円程度
破産手続を進めるうえで、自己破産をしたことなどを官報(日本の機関紙であり、政府や各府省が国民に広く知らせるために発表する公文や公告、会社法による法定公告等の記事が掲載される)に公告します。官報への公告を行うための費用は、予納金として破産申し立て時に納付しなければなりません。金額の大まかな目安は、10,000円〜19,000円程度となるのが一般的です。
引継予納金:最低20万円
破産管財事件において、申立人となる会社では、手数料や官報公告費だけでなく、破産管財人が手続を遂行するための予納金を納付しなければなりません。この予納金は、申立人(もしくは申立人の代理人弁護士)から破産管財人に引き継がれるケースが一般的であることから、引継予納金と呼ばれています。
同時廃止手続(破産管財人が選任されず、破産手続きが開始されると同時に破産事件を廃止する手続のこと)では、破産手続が破産手続開始決定と同時に終了するため、手続処理の費用や破産管財人報酬がかかりません。したがって、予納金は手数料と官報公告費のみで足ります。その一方で、管財事件では、破産管財人によってさまざまな管財業務や手続が行われることから、その処理にかかる費用や破産管財人の報酬等が発生します。そのため、官報公告費等以外にもお金が必要とされます。
これらの費用・報酬を賄うために、破産手続の申立人となる会社では、手数料や官報公告費とは別の予納金(引継予納金)を支払わなければなりません。引継予納金は、申立人が破産管財人に対して直接支払う仕組みです。
なお、少額管財事件ではない特定管財事件の引継予納金の基準は、負債額に応じて以下のとおりです。ただし、これはあくまでも東京地方裁判所の事例で、裁判所によって引継予納金の金額は多少変動する点に注意しましょう。
負債総額 | 引継予納金の額 |
5,000万円未満 | 70万円 |
5,000万円~1億円未満 | 100万円 |
1億円~5億円未満 | 200万円 |
5億円~10億円未満 | 300万円 |
10億円~50億円未満 | 400万円 |
50億円~100億円未満 | 500万円 |
100億円〜 | 700万円 |
上記に対して、東京地方裁判所本庁および立川支部における少額管財事件の場合、引継予納金は原則として20万円です。なお、裁判所によって引継予納金の金額は異なります。関東圏の裁判所では、東京地裁と同様に少額管財事件の引継予納金を20万円とするケースが多いものの、別の地域では金額が異なる場合もあります。
予納金以外の裁判費用一覧
予納金そのものには該当しないものの、破産手続開始の申し立てにあたっては、ここまでに紹介した予納金のほかに、裁判手数料(収入印紙代)や郵券(郵便切手)などの費用が必要とされます。
裁判手数料は収入印紙で納付します。この手数料は自己破産申し立てであるか、債権者破産申し立てであるかによって異なります。東京地裁本庁の場合、通常は破産手続開始の申立書に収入印紙を貼付して提出します。法人の自己破産の場合は一律1,000円です。
破産手続開始の申し立てにあたっては、郵券(郵便切手)の提出も求められます。郵券の金額や内訳は裁判所によって異なるほか、手続の内容によっても差異が見られます。
東京地裁本庁の場合、東京高裁地裁簡裁合同庁舎の地下の郵便局(東京高等裁判所内郵便局)で郵券のセットが販売されています。自己破産・少額管財の場合は4,200円分です。
これらは、同時廃止事件であっても最低限納めなければなりません。
破産手続における予納金の納付方法・タイミング
破産手続を行う場合、手続きの方法や地域の裁判所によって予納金の納付方法や支払いのタイミングが異なります。
予納金の納付方法としては、裁判所の窓口にて一括で支払うか、銀行振込になるケースが多いです。裁判所によっては、分割払いに対応していることもあります。
参考までに、東京地方裁判所において少額管財事件の手続を取る場合の破産予納金納付の基本的な流れを以下にまとめました(現金での納付のケース)。ただし、東京地裁倒産部は中目黒庁舎に移転しておりますので、運用には多少の変更があるかもしれません。
- 東京地方裁判所の破産再生部(民事第20部)の破産受付カウンターに対して、破産手続開始の申立書を提出する。
- 破産受付係による提出書類の確認が終了するまで、破産受付カウンター前の椅子で待機する。
- 破産申し立て書類の確認後、待合室に移動し、名前が呼ばれるまで待機する。
- 名前が呼ばれたら指定された面接席へ行き、即日面接(破産手続開始申立の当日または申立日から休日を除く3日以内に、担当裁判官と申立代理人弁護士が面接を行うもので、東京地方裁判所本庁にて運用されている)を受ける。
- 即日面接が終了したら、保管金カウンターにて破産予納金を納付する。
上記は、東京地方裁判所本庁において少額管財事件の手続にかかる破産予納金納付を現金で納付するケースの基本的な流れです。振込みにて破産予納金を納付したい場合、速やかに振込みをするととともに、「振込依頼書(裁判所提出用)」および「保管金提出書」を出納第2課へ提出してください。
裁判所に対して予納金を納付するタイミングは、破産手続開始の申し立てから2週間から1カ月後となる場合が多いです。裁判所は破産手続開始の申し立てを受理した後に、申し立ての内容を精査したうえで具体的な予納金額を決定して申立人に対して通知するのが一般的です。
予納金の納付期限は特に定められていないものの、予納金を納付しなければ破産手続開始の決定が行われません。したがって、裁判所からの予納金額が通知され次第、速やかに予納金を納付しなければなりません。
参考:東京弁護士会LIBRA 2009年3月号「東京地裁書記官に訊く(下) ―民事訴訟手続・破産 編―」
破産手続きで予納金を支払えない時の対処法
破産手続の実施にあたって、現時点で借金の返済に追われており、予納金を支払うだけの資金が残っていない会社も少なからず存在することが想定されます。
本章では、破産手続の実施にあたって予納金を支払えない会社が取り得る効果的な対処法の中から、代表的な2つをピックアップして解説します。
弁護士に資金を預けて積み立てる
自己破産を専門家に依頼すると債権者に対して受任通知が送付され、一般的には債権の督促がストップすることから、その間に破産手続の準備を進めていくのが通常です。
破産手続の準備中は債権者に対して返済を実施する必要がなくなるため、それまで返済に充てていた分を予納金として積み立てていくことが可能です。
そのほか、予納金を積み立てる方法としては、法人の財産を売却して現金化したり、売掛金の回収をしたり、法人が加入している生命保険などを解約してその返戻金を充当したりする方法があります。ただし、これらの方法で資金を捻出するためには、あくまでも破産手続きに充当する費用に充てることが条件です。一部の債権者に優先的に弁済したり、自分の生活費に充当したりすることは「偏頗弁済」と呼ばれ、破産管財人の調査によって問題となるためご注意ください。
自身で予納金を積み立てることが難しいケースでは、弁護士などの専門家にお金を預けて代わりに積み立ててもらうことも可能です。予納金をはじめとする破産手続にかかる費用を準備したうえで申し立てを行えば、破産手続をスムーズに進められます。ただし、破産申立者からの資金の預かりに対応しているかどうかは弁護士事務所によりますので、あらかじめ問い合わせておきましょう。
裁判所に相談し分割払いに対応してもらう
裁判所によっては、引継予納金について一括ではなく分割払いに対応している場合があります。一例として、東京地方裁判所や大阪地方裁判所などでは、破産手続の引継予納金に関して、分割払いを認めています。
ただし、分割払いが認められたとしても、破産手続は予納金を全額支払い終えるまでは終了させることができません(例えば、東京地方裁判所では債権者集会や免責審尋の期日を積立ての終了時期に合わせて設定することとしています)。
しかし、例えば、東京地方裁判所の運用であれば、破産手続の開始決定後の分割払いとなるため、債権者の訴訟提起等に悩まされずに分割払いを行うことができる点は大きなメリットといえます。分割払いを認めてくれる裁判所の数は決して多くありませんが、一括での予納金の支払いが難しい場合は相談することをおすすめします。
破産手続で予納金を安く抑える方法
破産手続には、同時廃止と管財事件(少額管財事件と特定管財事件)があります。破産手続にかかる予納金の額は、同時廃止、少額管財事件、特定管財事件の順番で高くなります。そのため、破産手続にかかる予納金の額を安く抑えたい場合、同時廃止の条件あるいは少額管財事件の条件を満たした状態で破産申し立てを行うことが大切です。
本章では、上記の内容を踏まえて、破産手続の種類ごとに予納金の大まかな相場を解説します。
同時廃止の予納金の相場
同時廃止とは、破産管財人が選任されず、破産手続きが開始されると同時に手続きが完了する方式です。同時廃止が適用されるためには、破産申し立ての段階で財産が20万円を下回っているケースであり、なおかつ免責不許可事項に該当しておらず、申立書にミスがないことが条件です。
破産申し立ての段階で財産が20万円を超えている会社の場合、どれほどの財産があるのか調査する必要があるため、管財事件として20万円以上の予納金が発生します。これに対して、同時廃止であれば破産管財人がつくことがなく、引継予納金の支払いが求められないため、予納金の支払いに困る可能性が低下します。
したがって、破産手続にかかる予納金を安く抑えるうえで、同時廃止に該当することは大きな効果が期待できます。
参考までに、東京地方裁判所における法人自己破産の同時廃止において破産申し立て者に支払いが求められる予納金をはじめとする手続費用の金額を以下にまとめました(予納金額は事案に応じて変更される場合があります)。
申立手数料(貼付印紙額) | 1,000円 |
予納金基準額 | 11,859円 |
予納郵券 | 4,200円 |
少額管財事件の予納金
少額管財事件は、特定管財事件の場合よりも破産申し立て者に支払いが求められる予納金の額を安く抑えられます。そのため、同時廃止に該当するための条件を満たせないものの予納金の額を安く抑えたい会社の場合、少額管財事件として取り扱ってもらうことが望ましいです。
少額管財事件に該当するためには、弁護士を代理人として立てたうえで破産手続開始の申し立てを行うこと(もちろん、弁護士に法人破産を依頼する場合、弁護士費用を支払う必要があります)のほか、例えば以下のような条件があります(一概には言えないものの、全国的には以下のような条件を設けている裁判所が多いとされています。その他の場合でも、裁判所の判断で少額管財事件となるケースはあります)。
- 3カ月で破産手続が終わる見込みがあること
- 債権者数が50社以内であること
以上のことから、少額管財事件の条件を満たしたうえで破産申し立てを行うことで、支払いが求められる予納金の額を安く抑えられる可能性があります。
参考までに、東京地方裁判所における法人自己破産の少額管財事件において破産申し立て者に支払いが求められる予納金をはじめとする手続費用の金額を以下にまとめました(予納金額は事案に応じて変更される場合があります)。
申立手数料(貼付印紙額) | 1,000円 |
官報公告費 | 14,786円 |
予納郵券 | 4,200円 |
引継予納金 | 20万円〜 |
特定管財事件の予納金
特定管財事件の場合、支払いが求められる予納金の額が破産手続の中で最も高くなり、申し立て者の負債総額により支払いが求められる引継予納金の金額が変動する点が特徴的です(詳細は、前述した「破産手続における予納金の種類と費用相場」の章をご参照ください)。そのため、特定管財事件でかかる予納金の額を安く抑えたい場合、申し立て者である会社の負債総額を減らすことが有効策です。
参考までに、東京地方裁判所における法人自己破産の少額管財事件ではない管財事件(特定管財事件)において破産申し立て者に支払いが求められる予納金をはじめとする手続費用の金額を以下にまとめました(予納金額は事案に応じて変更される場合があります)。
申立手数料(貼付印紙額) | 1,000円 |
官報公告費 | 14,786円 |
予納郵券 | 4,200円 |
引継予納金 | 70万円〜(申し立て者の負債総額により変動) |
参考:東京地裁民事第20部「破産事件の手続費用一覧」
破産手続では予納金は返還されない
債務者である会社が自ら申し立てをする自己破産の場合、債務者が予納金を支払いますが、これはそのまま破産財団を形成するものとして扱われるため、破産債権(破産者に対して破産手続開始前の原因にもとづいて生じた財産上の請求権)にも財団債権(破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けられる債権)にもならず、債務者に対して予納金が返還されることはありません。
債権者破産では予納金が返還される可能性がある
一方で、自己破産ではなく債権者破産(債務者ではなく債権者側が債務者に代わって行う破産手続き)申し立ての場合には債権者が予納金を支払わなければなりませんが、この予納金は破産者の財産ではなくあくまでも債権者の財産であるため、基本的に返還されなければなりません。
そのため、債権者申し立ての場合の予納金の返還請求権は財団債権となり、破産財団の中から優先的に返還されます(ただし、当然ながら破産財団がない場合には返還されません)。
まとめ
破産手続における予納金とは、破産管財人の報酬や管財事務に必要な費用に充てるための費用として、破産手続を実施する会社があらかじめ裁判所に対して納める費用のことです。
法人の破産手続における予納金の種類と費用の大まかな相場は以下のとおりです。
- 官報公告費用:10,000円〜19,000円程度
- 引継予納金:最低20万円
- 裁判手数料(収入印紙代):1,000円
- 郵券(郵便切手):4,200円
予納金が支払えなかったり、予納金の額を抑えたりするためには、弁護士などの専門家に相談して、適切なアドバイスをもらうことをおすすめします。